「どうしてあなたは私に好きっていうの、それからいちいち好きって言葉をせがむの。私はあなたを愛しているのに凄く・・・・」

彼女はいつもと変わらない無表情でそういう。
どうしてそんな彼女を僕は心底愛してしまったのかがよくわからない。
彼女の変わらない変えない表情と僕を見つめる壊れそうな黒い瞳に吸い込まれた。
今までにない感覚を彼女は僕にくれた。
彼女が僕を恋人にしてくれるなんて思わなかった。
告白もきっと冷たくあしらわれると思った。
彼女は人に無関心に見えたし自分にも無頓着な気がしたから。

妙に彼女には存在感はあったけれど何も口にせず誰にも干渉しようとせず、一人でいることが多かった。

だから僕のような目立たない訳ではないけれどその辺にいそうな馬鹿でお調子者なんか相手にしないと思った。なのに彼女は僕の告白をすんなりと受け取った。
告白した日、初めて僕は彼女とまともな会話をした。
付き合って一年になるのに彼女が何を考えているのか、わからない。いや、人間十人十色だから完璧に解りあう分かり合うなんて出来ないだろうけど。


「どうして君は言葉にしたがらないの」
「だって言葉は呪いよ」
「でも口にしないと伝わらないじゃないか」
「私の目に嘘はないの、貴方は私の目をちゃんと見つめてくれるでしょう。伝わらないかしら」
「・・・・・・・」

彼女は僕が戸惑っているのを見て唖然とする。
彼女の中の常識を僕は知らない。彼女は自分の気持ちを口にすることが少ないから。


「・・・・・うーんとね、広崎君。言葉を口に出すとね、私ね私に呪われるの。私、言葉を人に伝えるつもりでいても自分に振りかけてしまうの。怖いの」


そしてゆっくりと口を開くとそういって静かに泣いた
僕はそんな彼女を優しく壊れないように抱きしめた。
僕に寄りかかると「ねえ、まだ怖いの。広崎君を好きってことが」と耳元で囁く。
彼女はきっと溺れるのを怖がっていた。僕は彼女を大切にしたいと思った。


どれぐらいかの間泣いていた彼女だったけれどいつの間にか小さな寝息が傍らで聞こえた。
泣きつかれたみたいだった。今まで彼女は僕の前で自分の脆さを表に出すことはなかった。だから、傍にあるそのぬくもりが優しくて嬉しくて頬が緩んだ。


僕は彼女にごめんなと呟いて少し泣いた。
時間が止まってしまえばいいのにと思った。この先も僕の時間の中に彼女がいてほしいと思った



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