箱の中で最近、毛虫を飼い始めた。
誰にも言わないで隠してる
だって言ったらみんな気持ち悪いだなんて言いそうだから。
毛虫さんは力強くて元気で愛らしい。
きっと蛾であっても蝶であっても鮮やかな羽の色をしていると思う
根拠なんてないけれど私なんかよりも何倍も毛虫さんは
その容姿なんて気にせず生きることに一生懸命だから。
だからそんな毛虫さんの心の中はそして飛べるようになる頃には
きらきら輝いてると思うの。

ここから、箱の中の毛虫さんの視点)

この人間は自分勝手だと思うんだけどまあ餌には苦労しないから
許そうと思うんだ。こんな醜い僕をきらきらした目で見つめるから
なんか自分が誇らしく思えた。

時間が経って僕は大きくなって
きっとこの人間が感じる時間のスピードとは違うんだろうけど
確実に死へのカウントダウンが近づいていたんだ、僕は。

こんな狭苦しいところは嫌いだけどあの人間はどうしてか嫌いになれない。
生まれて最初のうち周りに仲間が居たけれど元気にしているだろうか
今は人間としか会えない。一人と一匹か・・・。
ここは安全だけれど少しさびしい。暗い。
僕にとって箱を開けてくれる人間が神様のようなものなのかもしれない
時間の経過というか何かを教えてくれる存在だった。


そして蛹になって僕は・・・・蝶になる。
地味な模様の蝶。
きっとあの人間は僕を見て嫌な顔をするかもしれない
だけど仕方ない。僕が望んだことじゃないから変えられないこともある。
だから、後悔はしない。


そんなことを考えていると光が見えた。

「わああ 蛹になってる。そろそろかな」
蛹になった僕には見えないけれど人間は喜んでるみたいだった。
だからなんだか怖かった。

それから3日か4日ぐらい経った。
もうすぐ僕は殻を破る。
それを知ってか今日はずっと箱は開けっ放しだった。

僕は殻を破って新しくなった。
僕だけど僕じゃない感覚が新鮮で少し怖かった。

人間にこの姿を見せる前にここから居なくなってしまいたかった。
新しい体に慣れるまでにはそう時間はかからなかった
飛び回っていた。

向こう側は見えるのに前に進めない
光は感じられるのに外に出られない

ふと思った
人間も誰かに箱の中で飼われているのかなと。
自由に外に出られるけれど守られながらも縛られてるのかと
僕はきっとこの人間が外に出してくれれば自由になれる
死ぬかもしれないけれど危険が多くなるけれど守られないけれど。

「ただいま」
聞き覚えのある声。
人間が帰ってきた。

そして僕を見て「やっと蝶になったんだね。ずっと見たかったんだ」
うっとりしたようにそういうとがちゃがちゃ壁を動かす
懐かしい風を感じた

「ばいばい」寂しそうな人間の声
まっすぐに外へ飛び出した振り返らなかった。

人間と暮らした長い日々を忘れないと思う
僕の中に記憶を置いておけるスペースがあるかわからないけれど
明日には違うことを考えているか体の動くがままに生きることを
子孫繁栄のことしか考えていないかもしれないけれど。


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