「僕がすきなのは・・・」
「え?何考えてるの、あんたオスじゃない」
「そんなの誰が決めたんだよ」
「自分で自分見て気づかないの」
「は?」


彼は私をまっすぐな目で見た
私はかまきり、彼ももちろんかまきり。
そして今日彼と交尾をしてそれから彼を食べて 卵を産んで生涯の幕を閉じるはずだったんだけど最後だし彼の話でも聞いてやろうかと腹の虫が泣いているのを無視して耳を傾けてやった。
でもこいつは意味のわからないことを言い出すのだ。
困ったんだけど、あまりにも彼が一生懸命話すものだから 私の食欲もいつの間にか収まっていや逆に萎えてしまっていた。


「だーかーら、簡単にっていうかあんたがわからずやね。いちいち私が説明してあげるんだけどさ、あんたはおすのかまきり。今から私の栄養分となりこれからの子孫繁栄に貢献しないといけない義務があるはずなのに、なんなの?」

「話聞いてくれるっていったのお前じゃん」

「もっとなんていうの。かまきりとして生きてきての武勇伝やら 間一髪で助かって生き延びた話とかさ、こう面白い話を・・・」

「それは俺の勝手だよ。正直、俺はお前なんてどうでもいいし子孫もどうでもいいけど体が勝手にそうするんだ、本能って邪魔だよ。本当はあのきれいな・・・」

「って正直言うけど、あんたが好いてる蝶ってオスだよ。あの模様見てわかるでしょ?あの種類の蝶食べたことあるでしょ?馬鹿じゃないの」

「わかってるさ。」

「何が言いたいのかまったくわからない。というかくだらない話聞いたせいで食欲なくなったじゃないのよ、子孫繁栄が使命なのに!」


「勝手にすればいいじゃないか。」

「何ぐだぐだしてるのよ、好きなら伝えに行ってすっきりしてから私のところにきて静かに食べられなさいよ。気持ち悪い、オスのくせにそうやってぐだぐだして、というかかまきりでそんなあんたみたいになよなよぐだぐだいってるやつそうそう居ないわよ」

馬鹿らしいけど彼の横顔が悲しそうに見えた。
そんな風に見えてしまう自分が気持ち悪い気がしたけどなんだか慰めなきゃって気持ちが大きくていつもなら言わない言葉を言っていた。

彼は頷くと蝶が居るほうへ歩いていった。
後姿が小さかった、元からかまきりのオスってメスより小さいんだけど余計に小さく見えた。

あいつ、死ぬんだよね私が殺して食べちゃうんだよね
どうしようもない現実になんだか切なくなった。



彼の後を少しついていくと一生懸命蝶に何か話していた。
それを蝶は無視しているようだった。

少し間が空いて彼の声が聞こえた「待って」

それと同時に動いた前足(かまの部分)が蝶を強く捕まえた
私は絶句した。蝶の羽根の欠片が散る。

きっと彼はないていたと思う。
そして何がなんだかわからないまま、捕まえた蝶を食べていた。
私はそんな彼がどうしようもなくつらそうに見えたので彼の傍まで行って彼を強く捕まえて一発で息の根を止めた。
彼の腕には彼が愛していた蝶の亡骸、私は心の奥の言葉に出来ない感情に戸惑いながら彼を食べた。
周りのメスがオスのかまきりっておいしいって聞いてたけど全然おいしくなかった、ただただ私は悲しかった。




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