「私さ、明日死ぬっぽい」
「お前またどんなドラマ見た?アニメ見た?つーかまさか、変な占いとかはじめたとか」
「違う」
こんな沈黙が流れるのは初めてだったから俺は内心焦っていた。彼女は結構タフでどんなことでも平気な顔して言ってのける。
「じゃあ、なんなんだよ」
「夢」
「へえ、だったら大丈夫だよ」
うへへへって俺はまぬけに笑って見せながら目をそらした。
「どうして、しゅんくんが怖がってるの」
「おいおい、何言ってんだよ。つーかさ、あれだって夢って誰かに話したら正夢にならないんだよ。だから心配するなって。なっ」
彼女の言葉は俺の脳を刺激する。夢が現実になるなんてないだろう。だって俺夢なんて見たことないしさ。あいつまた何かに感化されたんだろうな、いっつも驚かせやがって。
「うううん。ごめんね…、しゅんくん」
「何がごめんねなんだよ。」
「私、嘘つけないの知ってるくせに。しゅんくんだってわかってるんでしょう、きっと焦ってるのは本能だよ。私たち、一心同体だもんね。だけど体は分れちゃってるからしゅんくんの中の私と繋がってた精神が失われちゃう、私が死んだら」
悲しそうに笑って頬に触れてきた彼女の手は冷たかった。言葉が出てこなかった、頭の中に沢山言葉が散らばってるだけで出てこようとしない。ただ彼女の手から伝わる冷たさに何かが吸い取られていくような気がしていた。

「んだよ、いつも私は死なない。もしかしたら不死身かもって笑ってたくせに次はなんだよ。お前さ、SFとかそういう類の番組見すぎだからそんな風に小さなことで怖くなってくるんだよ」
「しゅんくんは見てないのに私の言葉で凄く怯えてるってこと考えたらさ、番組の影響っていう選択肢はないに等しいと思うんだ。ほらやっぱり本能だよ、しゅんくんの中にあるその恐怖は片割れを失うっていう悲しみを早いうちに意識することで心の準備をしてるんだと思う。私が居なくなっても追いかけて死ぬなんてことしないように」

ぴっ

―○○市の会社員○○○さんが〜

無意識にリモコンを手にしていた。彼女は全部全部わかっているような気がした。その落ち着きの中にある先に起こるであろう現実から逃げたがっていた。時間が止まらないことぐらい知っている、でも行為を遅くすることは出来事を遅らせることは出来るかもしれないなんてそんな期待があった。

「しゅん、くん?」
「あ、ははは」
リモコンを持つ手に彼女の手が重なって無意識にへらへらする俺がいて余裕がなくて泣きそうでそんな自分がいることが情けなくて笑ってしまったんだと思う。
「ずっとずっと前から知ってたの。しゅんくんにもっと早く言えばよかったって思ってる」
「わからないな、それ」
「ごめんね、さよならしたい」
「へえ」
思考が止まるっていうのはこういうことを言うのかと思った。目に溜まり始めた涙も止まった。唇が震えた。彼女は泣かなかった。
「忘れてほしいなあ。私の中にはずっとしゅんくんを置いておくつもりだけど。ありがとうね、しゅんくん」

彼女はいなくなった。
いつの間にか荷物もまとめていたらしい。
空っぽになった、右から左へテレビの音声が通り抜けていく。
頭の中では意味もなくただ彼女の言葉が回る。
言い訳か、言い訳なのか。
彼女はやっぱり嘘が下手だな、他に誰かを愛す予定が出来たのならちゃんと言ってくれれば俺だってそんな小さな人間じゃないから快く送り出してやるのに。




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