「それ以上にもそれ以下にもなれないし」
彼女の横顔を見ながら僕はため息をついた。
一日きりで終わるはずの関係が今もこうやって続いてしまっている。
「虚しくないの」
「私にはこれぐらいが楽なの」
「楽と楽しいは違うだろう」
彼女は返事をせずに帰り支度を始める。
「貴方は私のこと好きなの?愛してるの?だったら別れてもいいよ」
目を合わさずに早口で言う。
返す言葉が見つからなかった。
「図星だった?私はこのままがいいの。ごちゃごちゃもないし都合がいいの」
「恋人作ればいいだろう」
「縛られるでしょ、その言葉に」
「そういうのが好きな人が多いんじゃないか。それがある意味安心になる」
「貴方だけだと思うよ」
彼女の言葉がとても鋭かった。
僕が持っているどんな言葉の盾も貫くもので、どこかしら傷を負わされた。そのたびに沈黙が流れる。連続で受けていては心がもたない。
女は皆そうだとも思えないし、自分の考えが共感されないとも思えない。彼女の感覚がどこか歪んでるとしか考えられなかった。

「恋人が居たことがないのかい」
「・・・・」
「君は綺麗だから付き合ったことぐらい…」
「いつでも人が想定内であると思ってはいけないんだよ」

彼女はドアの前でそう言って悲しそうな顔をした。
抱きしめないといけないと思った。でも、動けなかった。
彼女の全てを僕が捕まえてあげられないような気がしたんだ。
抱きしめてから考えればよかったのかもしれない。

僕は弱かった。

戸惑いを隠せない僕を見ながら「人にいろいろ言うけど貴方も私と同じなんでしょう」と目に涙を溜めて出て行った。

耳の中で彼女の言葉がこだまして、動けなかった。
それから彼女との連絡は途絶えた。
相変わらず僕は恋人を作らないまま過ごしている。
夜になると彼女に似た女が横に居る。




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