「期待させ上手でごめんね」
「ははは」
何を言うかと思ったらそんなことかと僕は笑ってしまった。
大粒の涙を浮かべる君はとても小さくて可愛く見えた。

「私ね、貴方が欲しいんじゃないの」
「そっか。別に求めてもいないよ。求められてる気はしてたけど」
「そう?」
「うん」

クリスマスソングが流れるショッピングセンターで僕らは手を繋ぐ。
どこからどう見てもカップルに見えるだろう。
そしてそんな大勢の人が集まる場所で女の子を泣かせるなんてどこのドラマだよと思ってまた笑いそうになる。僕は空気の読めない人間なんだと思う。
人ごみの中で僕らは二人っきりになった。
彼女の涙声は彼女を意識している僕にしかきっと聞こえないだろう。
彼女にもきっと僕の声だけが強く耳に残るのかもしれない。
クリスマスソングなんてまた来年もこの場所で同じように流れるのだから。

「どうして君が泣くの」
「だって」
「泣いたからって僕には何も響かないよ。ただ泣いてるなあとしか思わないよ。僕をぎゃふんと言わせることの出来る言葉を言ってみてよ」

カップルや家族連れの声があちらこちらから聞こえる。クリスマスの飾りつけもそうだが、にぎわう人のそういう幸せな雰囲気がまたここを明るくしているのかもしれない。

「付き合ってないのにこんな風に誘ったりして」
「友達だろ」
「私、彼氏いるの」
「それさ、自惚れだよ」
「・・・・」
「君だから買ってあげてるんじゃないよ。奢るのも君だからじゃない」
「どうして」
「そうやってたらいつでもたかってくる人がいるから。キャバ嬢とかに貢より全然安いし」
「私は…」
「最低なのはお互い様だから文句は言えないよね。面白かったよ。だってこんな人ごみの中で泣くなんてさ。悲劇のヒロインぶるなら彼氏と別れてからにしてね」

彼女からの返答はなかった。
人ごみの中に彼女を置き去りにした。
どうせ、迎えに来てくれる人がいるんだから別に悪いことではない。
もうすぐ、クリスマスだ。
いつもイブと当日は一人で過ごすことになるだろうからそれまで誰かと温かい時間でも過ごすとしよう。タイムイズマネーというのはこういうことなのかもしれない。どんなにお金を稼いで時間を買っても一番欲しいものはお金じゃ買えないんだから。




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