少しざわついたファミレスで僕と彼女は向き合って座っていた。
「あのきらきら光る星に生まれていたら、ただの屑じゃなかったのにな」
彼女は僕から目をそらして苦笑した。
初めてのデートでそんなことを言われても困る。と普通なら思うかもしれないけれど気がついたら僕は「君は屑なんかじゃないよ」と呟いていた。
すると彼女は、どこかのネジが外れたのか思うように笑った。
「まさかそんな言葉を片山くんが言うとは思わなかった」
「どんなイメージ持ってるの?まあ、自分でもあんなこと言うキャラではないと思ってるけどさ」
「うーん。物静かで無駄なことは喋らなくって固い人かな」
「そっか」
「それと冷たい」
「そう?」
「だから意外だったの。私をフォローするような言葉をくれるとは思わなかった。星屑がどんなものかを語りだすのかと思った」
「へえ」

「失礼します。チョコレートパフェでございます」

ウェイトレスがきて、パフェを彼女の前に置く。
「あ、あの。これ僕の」
と言うとウェイトレスはどぎまぎして置きなおそうとする。
「大丈夫ですよ、置きなおさなくても。はい」
彼女がパフェを僕のほうに寄せてにこりと笑うとウェイトレスは頭を下げて去って行った。

「片山くんが甘いもの好きだっていうのも意外だなあ」
「話しずれてる」
「いいじゃない。さっきの私のただの独り言みたいなものだし、もういいの」

女って不思議な生き物だと思う。こないだ、同級生の男で集まって飲んだ時に「女は過去じゃなくて今と未来に生きてんだよ」と言っていたことを思い出した。
今の話が面白ければ、過去の話題が埋もれても気にしないのか。あんなに深刻そうな顔をしていたくせに。それとも掘り返してほしいのか、僕を試しているのか。

「で、さ。どうして誘ったの」
「片山くんも話をそらしてるー。片山くんってブラック―コーヒー一筋って顔してる」
「なんだよ、それ」

賑やかなファミレスの中に僕と彼女の声が埋もれる。でも目を合わせてる僕らは互いの声をちゃんと拾っている。不思議だと思った。
僕らは鼓膜で音の波を拾っているのにそれをちゃんと識別できている。鼓膜は一枚しかないはずなのに。そして他の器官も一つしかないのにそれらは、単体で生きているように音を拾うんだ。耳の中の蝸牛の渦巻の中で音が腸で栄養分を吸収するときのように音を捉まえているのだろうか。

「いつも、考えごとばっかりしてるんだもん。苦い顔してさ」
「僕が子供だったらイメージ通りだっていうのかい」
「そうなるね、もしかして怒った?」
「いいや」

彼女の声を一生懸命拾っていた。

「片山くんって可愛いね」
「どこが」
彼女のペースに飲み込まれてしまう自分がいて、なんだか悔しかった。
心地よい声という振動が鼓膜を震わせる。

「屑でも頑張れば少しだけ輝いた屑になれるかな。誰かが抱きしめたくなるような屑になれるかな」
「君はどうしても星になりたいの」
たとえ話だよと彼女は笑うとそろそろ帰ろうかと席を立つ。
外に出ると暗くなっていた。
どれぐらいか二人で歩いた。
昼間とは違う雰囲気になる街に二人で紛れた。
やっぱり僕は、周りがどんなに騒々しくても彼女の声をちゃんと拾えてしまう。
「ね、こんな都会でも星は見えるんだね」
「そうだね」
「反応薄いなあ」

不満そうな彼女を横目に僕は思う。

「僕に何を求めているの」
「え、ただ…」
「雪」
「本当だ」

「みんなの星になりたいの」
「片山くん?」
「なに?」
「鈍いよね」

彼女はさっきまでの不機嫌そうな顔が嘘のように笑って「星屑になりたいなんて言ったのはね。片山くんの好きそうな話題かなって思ったからなんだよ。」と続けた。


空を星が走った。
僕は「君の話す星屑の話をもっと聞いていたいと思ったよ」と言って彼女と手をつないで歩いた。彼女の手はとても暖かくて僕の冷たい手にぬくもりをわけてくれる。

二人で一緒にいることが多くなっていった。でも、彼女は僕の前で星屑の話をしてもそれになりたいとは言わなくなった。僕はふとした時に、彼女に告白した日に走った星を思い出す。流れた星屑は誰かの希望になるのかもしれないと同時に思う。




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