緩やかに沈む


春が顔を出しては冬に包まれ染まっていく。春を迎えるまでもう少し掛かるらしい。
夜布団の中で蹲り考える。気が付いたら暗闇に慣れていた。目が慣れたというわけではなくただその空間が落ち着くからそんな気がしたんだ。幼い頃跡形もなく契れた言葉が揺れていた。私は単純だったし言葉が繰り返されるせいでそれを信じるしかなくなっていたのかもしれない。失われることはないと信じるしかなかったんだ。

「一番だよ」って言ってた。「大切だよ」と言っていた。
それは夢のようで本当で記憶の中で浜辺に書かれた時のように書かれては飲み込まれを繰り返していた。繰り返される曖昧と音の中で耳が言葉の味を覚えていた。クセになるような言葉の味を忘れられなくしていた。

時が言葉を過去にする。未来まで続く言葉は物語として残ったものでしかない。言葉は生きても関係がずっと生き続けるとは限らない。言葉の変化は緩やかで人の変化は嵐のようで跡形もなく”今”を飲み込んでいく。過去を風化させないようにそして過去を綺麗なものにするように、今を生きやすくさせるように。私は名前を得て存在を確信した。周囲の人々もきっと名前を得たことで存在を確信した。言葉が音となり作った。いつまでも過去の言葉の味にこだわっていてはいけないけれど、忘れられないんだ。新しく耳が飲み込んだ言葉ではどうやっても包み込めないな。






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