冬を越せなかった蛹

雨が降りました。しとしとと少しずつ染み込みやすいようにゆっくりと私の肌を濡らしました。そして追いかけるように冷たい風が濡れた肌を撫でます。体温は驚く程早いスピードで雨の雫に吸い込まれていくのです。

過ぎていく時間を振り返りながら思いました。私は生まれ落ちたとき「生き続けたい」と願っていたのか。それとも生まれ落ちた瞬間を幸福だと思っていたのか。続く幸福を願っていたのか、その一瞬に満足してまた眠りたいと思っていたのかと。
幼かった頃、死ぬことなんて考えたこともありませんでした。死ぬこと以外に考えることが多くあったからです。死ぬことが終わりだと本能でわかっていたのかもしれません。だからただ吸収できる世界を無意識に追いかけ求めていたのです。恐怖を口にしながらもそれ以上に欲求の方が強く作用し私を動かしていました。今はどうでしょうか、昔よりも物事に対して鈍くなったと感じます。意識する方向が固まりすぎてきているからでしょうか。柔らかかった思考が衰えた筋肉のように収縮しにくくなっているのでしょうか。考えれば考えるほど体が言うことを聞かなくなるような気がして怖くなります。おかしいですね。

冬が深くなるほどに私の中で春がしっかりと形作られていくのです。きっと遠いものほど鮮やかに感じられるからでしょうね。近づけば近づくほど霞むんだろうな。だから私は冬の寒さに溺れて憂鬱になろうとするのかもしれません。いつまでも春が鮮やかでいてほしいから。

土の中で年中過ごし夏の短い期間だけ光に当たる蝉の幼虫のように蛹で冬を越す蛹のように私は見えない世界を創造していようとしてしまう。都合のいい世界を作り出したくなってしまう。冬に見る春の夢から醒めたくないのです。






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