《がっ!?》

瞬間、己の側頭部に走った強い衝撃に、ブロウルは堪らず掴んでいたジャズから手を放した。
それを好機と見たジャズは、地面に着地するや否や再びブロウルに突っ込んで行く。
そして、ブロウルの攻撃を軽々と躱しながら辺りを飛び回る観月に、ジャズは応戦しながら話し掛けた。

《よォ兄ちゃん!さっきは助かったぜ!》
「…言葉の割りには余裕そうだな、アンタ」
《いや、これでも結構焦って…っと!》

《危ねェ!!》とジャズが身を捩れば、ギリギリの所をブロウルが放った砲弾が掠めるように通り過ぎる。
観月はそれに軽い罵声を飛ばすと、無差別に砲撃するブロウルの隙を突いて、その首筋に日本刀を突き立てた。
導線が千切れる音と共に、電気の弾ける音が聞こえる。

《っ虫けら風情が…!!》
「その虫けら風情に首落とされそうになってやがンのは、一体どこのどいつだろうなァ?」

今の観月の一撃でどこかの回路を切断されたらしいブロウルは、重い地響きを立ててその場に崩れ落ちた。
どうやら切断した回路は、四肢に電気信号を送る為の回路だったらしい。

観月はギチギチと悔しそうに電子音を掻き鳴らすブロウルの首筋から日本刀を引き抜くと、その体の上からひょいと飛び降りる。
そして、各々の武器を展開したまま近寄って来る、ジャズ、ラチェット、アイアンハイドの三人を見上げた。

《…止めを差さないのかね?》
「…戦場のど真ん中で体を動かせねェンだ、その時点で死んだも同然だろ」

観月はそう言うとラチェットからブロウルに視線を向け、ラチェットは観月の言葉にキュルキュルと電子音を立てる。
大方、今までの戦場での経験と軍医としての知識を照らし合わせている、といったところだろうか。

そんなラチェットの隣で観月の言葉を聞いていたアイアンハイドは、その考えを一蹴する。

《甘い考えだな》
「何とでも。それに、ンな事ァ自分が一番分かってるさ」

観月はそう言うと自嘲気味に笑った。
だが急に顔を強張らせると勢いよく空を見上げ、何かを探すように視線を走らせる。
その後ろではブロウルがギュルギュルと電子音を掻き鳴らし、耳障りだという理由でラチェットに全ての動力回路を切られていた。
スパークを撃ち抜いて殺さないのは、ラチェットなりの観月への配慮だろう。
ジャズがそんな事をぼんやりと考えていたその時、近くの路地に禍々しい赤い双眸を携えた巨大な鈍色が降り立った。





他のディセプティコン達とはまた違ったオーラを放ちながら、その鈍色は何かを探すようにゆるりと辺りを見渡す。
その姿にラチェットが声を荒げ、慌ててその場に居た一般市民を下がらせた。

《メガトロンだ!下がれ!急げ!!下がれ!!》

ラチェットの声に人々が逃げ惑う中、メガトロンからの攻撃に備える為にジャズは即座に自分のシールドを張る。
その過程の中で、偶然そのカメラアイに観月の姿を捉えたジャズは自分達の側でメガトロンを見上げる観月に声を張り上げた。

《何してンだ兄ちゃん!!アンタも早く下がれ!!》

己のその声に漸く観月が足を動かしたのを確認すると、ジャズはメガトロンの一度目の砲撃を弾き返す。
だがそれはメガトロンの砲撃にしては比較的に威力の弱い物だったらしい。
放たれたメガトロンの二度目の砲撃にシールドは全く役に立たず、ジャズは軽く吹き飛ばされ、道路へと倒れこんだ。


「ソルスティス!!」

ジャズが衝撃に低く呻いていると、その聴覚センサーが一つの声を捉える。
ジャズが驚いて勢いよく顔を上げれば、そのカメラアイにはこちらに駆け寄って来る観月の姿が映った。

《なっ…!!何してンだ兄ちゃん!早く逃げろ!!》

《まだメガトロンがそこに居るンだぞ!!》と声を張り上げても、観月は逃げようとしない。
それどころかジャズの傍らで足を止めるや否や、日本刀片手に目の前に迫るメガトロンを睨み付ける。

そして制止の声を上げるジャズを無視して、観月は勢いよく地を蹴るとメガトロンへと突っ込んで行った。





Fear of dull color,
 the light of the
  dull color

  "鈍色の恐怖、鈍色の光"





(観月の振りかざした日本刀が)

(キラリと)

(日の光を受けて輝いた)





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