あちこちから悲鳴が上がる中、突如として轟音が響き渡ったかと思えば、街角からマインプラウ仕様のM1エイブラムス戦車――ブロウルが姿を表した。
観月はアデルをロボットにトランスフォームさせると、応戦し始めた軍人達とオートボットに向けていた視線をバンブルビーの元へ向ける。
そこには、バンブルビーから託されたキューブを茫然とした面持ちで抱えているサムがいた。
ミカエラは人の波に逆らって脇道に停めてあるレッカー車に駆け寄り、何とかそれを動かそうと行動している。

観月は下から小首を傾げて見上げてくる紫の双眸を見下ろすと、少し考えるような仕草をとった。

『…アデル、お前もう1、2段階トランスフォーム出来るか?』

アデルはその言葉に暫し黙り込む。
そしてコクリと頷き、次いで少し不安そうに言葉を紡いだ。

《…なにするの?》
『何、ちょいと戦闘面でのサポートが欲しくてね』

『頼んだぜ?』と悪戯っ子のように笑った観月に、アデルは分かったと深く頷いてトランスフォームを始める。


数秒後、目の前に表れたソレに観月は人知れずにやりと笑みを溢した。





観月がトランスフォームしたアデルを装備しその動作確認をしていると、その前を黒い何かが通り過ぎて行く。
それに観月が反射的に罵声を飛ばせば、十数メートル先の黒い何かから返事が返ってきた。
まさか返事が返ってくるとは思っていなかった観月は軽く目を見開き、次いでその黒い何かがこの数日で見慣れた車である事に気付く。

「トップキック!!」
《戦わないのなら隠れてろ!!》

アイアンハイドは観月にそう叫びながらブロウルが放った砲撃を避けると、走行スピードを保ったままトランスフォームし、次の瞬間には前転の要領で両手を地に着いてその巨体を浮かせた。
宙に浮いたアイアンハイドと地面の隙間を彼を狙ったものであろう砲弾が二つ、当たりも掠りもせずに通り過ぎて行く。
アイアンハイドは砲弾が通り過ぎてすぐに両腕のキャノンを展開させると、空中で逆さまになった状態のまま、両腕のそれを道路に向けて撃ち放った。


瞬間、アイアンハイドの体が地面から更に浮き上がる。

だが彼は空中で体勢を立て直しながら回転すると、見事足から地面に着地し、そのままドッジロールを決めてブロウルへと挑んで行った。
その無駄のない動きは、流石歴戦の戦士といったところだろう。


観月はアイアンハイドの一連の動きを見つめた後、ざっと自分の周囲を見回し、少し離れた所に転がっていた骨董品店の品物であろう日本刀を拾い上げた。
通じるか通じないかで言えば限りなく後者に近いが、接近戦の際に気休めの防御ぐらいは出来るだろう。
観月は拾い上げた日本刀の柄を強く握ると、ブロウルと戦うアイアンハイドに加勢すべく、勢いよく地を蹴った。





《来い!ディセプティコンの野郎!!》

ジャズはそう言うと、アイアンハイドを砲撃するブロウルの砲台にトランスフォームしながら勢いよく飛び乗り、その照準をアイアンハイドから反らす。
そんなジャズの行動に怒りを感じたのか、ブロウルはM1エイブラムス戦車からトランスフォームし始めた。
その間にも、ジャズはブロウルの上を動き回り、振り落とされる事無く彼の上に留まる。
ブロウルが完全にトランスフォームして立ち上がると、ジャズは彼の背中に乗ったまま、彼の左肩に装備されていたミサイルランチャーを蹴り落とした。

ブロウルはそれに更に怒りを感じたのだろう。
己の背中に立つジャズを片手で捕まえると、ブロウルは彼を力任せに投げ飛ばそうと腕を振り上げた。

――瞬間、そんなブロウルのカメラアイに一人の有機生命体の姿が映り込む。

いつの間に、とブロウルが驚きに目を見開く前に、その有機生命体――観月は彼の側頭部に爪先を叩き込んだ。




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