「…首が痛ェ」
「…奇遇だな、俺もだ」
「…慣れちゃったわ」

遠くから見ても巨大だったオールスパークは、すぐ傍まで来れば見上げて首が痛くなる程に大きかった。
サムやミカエラ、レノックス達から少し離れた場所でちょっとした軽口を交わしていた観鶴、観郷、観月の三人は、痛みを訴える首筋を解しながらゆっくりとオールスパークに手を伸ばすバンブルビーに目を向ける。

サム達が無言で見守る中、バンブルビーの両手の指先がオールスパークに触れた。

――瞬間、バンブルビーが接触した部分を中心に、周囲に眩い光が放たれる。


そしてそれと同時に観月が叫び声を上げた。


『いってぇぇぇぇ!!!!!』
「「「「!!!!????」」」」


バンブルビーとオールスパークを見つめていたサム達は、叫び声を聞くなり弾かれたようにその方向に目を向ける。
するとそこには、両手で顔を――正確には目の辺りを覆いながら蹲っている観月と、その両脇で目を瞬かせながら観月を見下ろしている、観鶴と観郷の姿があった。

『いてェ普通にいてェ何コレ何コレ訳わかんねェつか本気で痛い目が痛いかなり痛いつか何故に俺?何故に俺の目?つか本当に目がバルスしたンですけど』
『…バルスってお前…』
『どこのラピ○タ王よ……』

ぶつぶつと日本語で泣き言を溢す観月に、観鶴と観郷はツッコミを入れながら揃って苦笑を漏らす。
そんな三人の姿に日本語の分からないサム達は頭に疑問符を飛ばし、バンブルビーは素早くネットで検索を掛けた。
その間にもぶつぶつと泣き言を溢していた観月だったが、粗方目の痛みが治まってきたのか唐突に両目を覆っていた手を離すと、平然と立ち上がる。

「あの、ミツキ…?」
「大丈夫なの…?」

ぱたぱたと服に付いた埃を払い落としている観月に、サムとミカエラがそう不安げに尋ねた。
すると尋ねられた当人はぱちくりと目を瞬かせ、次いで二人を安心させるようにふっと柔らかく微笑む。

「もう大丈夫だ、心配ない。ありがとうな」

観月は二人にそう言うと、オールスパークの側に立つバンブルビーを見上げた。
最初は不思議そうに首を傾げていたバンブルビーだったが、その瞳の言わんとしている事を悟るとキュルキュルと電子音を発して頷く。
そしてゆっくりとオールスパークに手を伸ばし、その両手の指先をオールスパークに触れさせた。


――瞬間、またしてもバンブルビーが接触した部分を中心に、周囲に眩い光が放たれる。

そしてそれは瞬時に白い光の線となると、オールスパークの表面に刻まれた幾何学模様のようなものの窪みを一気に駆け抜け、全体に広がっていった。
次の瞬間には、オールスパークの一角が無数の立方体となり、そこから順にカチャカチャと音を立てて内側へ折りたたまれるように収縮し始める。

壮大かつ人智を遥かに超えたその光景に、サム達はごくりと息を飲んで見入っていた。

そんな中、観月の持つエナメルバッグが急にごそごそと動き出す。
不審に思った観月が少し警戒しながらバッグのファスナーを開けると、中からワインレッド色の"何か"が勢いよく飛び出した。
それに驚いた観月は小さく悲鳴のような声を上げ、次いで慌てたように視線を辺りに走らせて飛び出して行った"何か"の姿を追う。

『オォウ…パソコンェ…』

何度か地面を跳ねてバンブルビーの足元に転がった"何か"は、観月が持って来ていたノートパソコンだった。
パソコンは一拍おくと、一瞬で人間の幼児くらいの大きさのロボットへと変形する。
だがそのロボットは銃器を展開して攻撃する訳でもなく、ただその場に座り込んで首を傾げるだけだった。

その目はでもでもない

それに首を傾げた観月だったが、はたと今の状況を思い出し慌てて紫の目のロボットから視線を外す。
次いでバンブルビーを見上げれば、あの巨大だったオールスパークがフットボールくらいの大きさでバンブルビーの手の中に納まっていた。

「質量保存の法則は無視か」や「そもそもどんな原理だ」といった、疑問という名のツッコミが観月の頭を過るが、実際にそれを問いかけるだけの余裕が今は無い。


観月はバンブルビーに視線を向けながら、こっそりとその足元に座り込む紫の目のロボットを手招く。

――相変わらず全く銃器を出さないので、こちらに対する敵意は皆無だろうと判断しての行動だった。

案の定、紫の目のロボットは一瞬きょとりと観月を見つめるだけで、銃器を出す素振りを全く見せない。
それどころか素直に立ち上がり、よろよろと覚束ない足取りで幼子のように歩くその姿に観月は思わず頬を緩める。

――だがそんなほのぼのとした光景も、観月の視界に入ったバンブルビーの行動によってぶち壊された。

《"誰かしら?""…敵だ!!!"》
『!!』

継ぎはぎのラジオでそう告げたバンブルビーの片手はいつの間にかいつか見たキャノンに変形しており、既にエネルギーが充鎮され始めている。
それを見た観月は慌てて紫の目のロボットを抱き上げると、ラジオで危険だと訴えるバンブルビーをぎろりと睨み付けた。
それにバンブルビーはビクリと大げさに震えると、すぐさま片手のキャノンを元に戻し呆然としていたサム達にラジオで準備が整った事を告げる。

レノックスと観鶴がこれからの行動について話している間に、観月は腕の中で自分を見上げるロボットに視線を落とした。

『…今のうちにお前の名前でも考えようか?』
《…?》

話している言葉が分からないのか、相変わらずこてりと首を傾げるロボットに観月はくすりと笑みを溢す。
そして暫くの間観月は宙に視線を彷徨わせると、今度は優しく微笑みながらロボットに視線を向けた。

『…アデル。うん、アデルにしよう』
《あでる…?》
『そう、アデル』

『これから宜しくな』と観月がロボット――基アデルの頭を撫でれば、アデルは数回目を瞬かせると嬉しそうに自らに与えられた名前を何度も復唱する。
そんなアデルの様子に観月が微笑むのと、話が終わったレノックス達が動き出したのはほぼ同時の事だった。





  Fear of side,
 a new companion

 "傍らの恐怖、新たな仲間"





("お待ちになって!!")

(うん…?)

("おまえ""私に黙って子供まで…""この浮気者!!!")

(…は?)

("私との事は遊びだったのね!!""死んでやるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!")

(おいサム、このカマロぶっ潰していいか)

(ダメに決まってるでしょ!?)





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