「――先程は大変失礼しました。暫くの間、バナチェックに代わり、私、観郷が説明を続けさせて頂きます」

観郷はそう言うと、コホン、と小さく咳払いをしながらサム達に向き直った。
そんな観郷の後ろでは、バナチェックが疲弊しきった顔で額を押さえ、シモンズが同情するように肩を叩いている。
サムとミカエラはそれに苦笑すると、(それぞれ片手で観月の頬を力一杯引っ張りながら)観郷の説明に耳を傾けた。





「――恐らくこれは北極に接近した際、地球の重力の影響で平行感覚を失い、墜落したのでしょう。数千年前と思われます」

そう言ってメガトロンを指し示した観郷に従い、サムとミカエラはレノックス達と共に改めてメガトロンの巨体を見上げる。
それにつられたのか、漸く二人から手を放して貰えた観月も痛む両頬に手を添えながら、気だるげにメガトロンに目を向けた。


――瞬間、ぞくりとした悪寒が観月の全身を駆け巡る。


目を見開くと同時に瞳孔が狭まり、大量の冷や汗が観月の肌を伝い落ちた。
奥歯がガチガチと耳障りな音を奏で、サムや観郷、シモンズなど、様々な人の声や音が観月の耳に入る前に聞こえなくなる。


代わりに観月の耳に届いたのは怨嗟の声。
恨み妬み嫉みといったものから、怒りや憎しみ悲しみ嘆きといった負の感情を全てぐちゃぐちゃにまぜたそれ。

観月は堪らずメガトロンから視線を背けた。
強烈な吐き気が観月を襲い、膝からくず折れそうになる。

相変わらず周囲の音は聞こえず、しかし同時に怨嗟の声も聞こえなくなった。
だが静かな静謐の中で気を落ち着かせる観月の頭の中で、突如ナニカが"壊してしまえ"と叫び、それとは別の何かが"壊さないで"と懇願する。


観月は訳が分からなくなって、己を守るようにぎゅうと自身の体を抱きしめた。







「ミツキ!!」
『――…ッ!?』


心ここにあらずの状態だった観月は、ミカエラに強く肩を揺すられ半ば強制的に意識を取り戻した。
いつの間にかサムやレノックス達は別の通路がある場所へと移動しており、観月とミカエラ、他の研究者達のみがその場に残っている。

観月は一度大きく息を吐き出すと、己の体を抱き締めていた両腕からゆっくりと力を抜いた。
大丈夫かと心配そうに問いかけるミカエラにぎこちなく頷くと、観月は額に浮かぶ汗を腕で乱暴に拭い、ミカエラを先にサム達の元へ行かせる。
そしてミカエラがサムに駆け寄るのを確認すると、観月はもう一度目の前に佇むメガトロンを見上げた。

先程のような感覚は、もうない。

観月はにっと口角を上げるとゆっくりと右手をメガトロンへと向け、その中指を立てた。





 What was on the
   bottom

   "水底にあったモノ"





(その後)

(サムとミカエラの元へと歩き去った観月の姿を)

(一対の紅と)

(一対の蒼が)

(監視するように見つめていた)





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