あの後、暫くその場で茫然と立っていたサムとミカエラだったが、いつの間にか近くに現れていたセクター7のエージェントに促され、ダムの湖面に突き出すように建てられた建物に来ていた。
その入り口付近には、昨夜ウィトウィッキー家に上がりこんでサム達を連行して来た男――シーモア・シモンズが立っている。
サムとミカエラが自分の目の前で立ち止まると、シモンズはサムの肩に手を置き口を開いた。

「よぅ坊や、お互い出会い方が悪かったな。腹が空いたろう?何か食うか?ラテとかマキアートは?」
「僕の車は?」

シモンズの問いには一切答えず、サムは質問を質問で返す。
どうやらサムは、シモンズの質問には一切答える気は無いらしい。
シモンズはサムのそんな反応に片眉を跳ね上げた。
少しピリピリとした空気が漂い始めたそこに、シモンズの斜め横からスーツ姿の男――バナチェックが割って入る。
バナチェックはサングラス越しにサムを見やると、困ったように口を開いた。

「サム、私の話をよく聞きたまえ。人命がかかっている。君が知っていることを隠さず全て話してくれ」
「…いいよ。でもその前に、車と僕の両親、ミツキを返してくれたらね」

サムの出した要件にバナチェックは無言で頷き、シモンズと共に建物に入ろうと体の向きを変える。
そして歩き出そうと足を動かした瞬間、サムが「それから」と付け加えの言葉を発した。
シモンズとバナチェックはまた体ごとサムに向き直り、続く言葉を待つ。

「彼女の犯罪歴も消しといて。綺麗にね」
「…来なさい。車の話をしよう」

今度こそ建物に入って行ったバナチェックの後ろで、ミカエラがサムに向かって嬉しそうに微笑み、更にその後ろでシモンズがぼそりと悪態を吐いた。



◇◆◇◆◇



『……静かだな』

サムとシモンズが言い争い擬きを繰り広げていた丁度その頃。
腰元から取り出したベレッタを片手に、辺りを警戒しながら通路を進む観月は、小さくそう呟いた。
まぁ内心では『リアルバイオ○ザードwktk!!!』と大変荒ぶっているのだが。

観月は丁度差し掛かった丁字路の角を右へ曲がり――――ぼふ、という軽い音と共に、何か柔らかいものに顔を埋めた。
それに驚いた観月は急いで顔を上げるが、人の形をした影とそこに浮かぶ紅い光を視界に捉えた次の瞬間、再び柔らかいものに顔を押し付けられる。

『〜〜ッ!!!???』
『…全く。勝手に部屋を抜け出すなんて、観月ちゃんはイケナイ子ねェ』

『折角匿ってあげたのに…』と溜め息混じりに呟く声は妙齢の女性のもので、酷く聞き覚えのあるそれを聞いた観月はいつの間にか強張っていた体の力を抜いた。
観月の体の強張りが無くなると、女性は観月の頭に回していた両腕からゆっくりと力を抜き、次いでクスクスと笑いながら観月の頬に優しく指を添え、口を開く。

『ふふ…久し振りね、観月ちゃん』
『うん…久し振り、姉さん』

観月がそう言って微笑むと、姉と呼ばれた女性――観郷はその紅い瞳をすぅ、と優しく細めた。





『――状況を簡単に説明するとね、観月ちゃん達はNBEと接触したの』

カツカツとヒール音を響かせて颯爽と通路を歩きながら、観郷は観月に今の簡単な状況を話した。
彼女から発せられた言葉の中に聞き慣れない単語を見つけたらしい観月は、頭に疑問符を浮かべながらその単語を復唱する。

『NBE…?』
 "非生物的地球外生命体"
『Non Biological Extra-Terrestrial…略してNBEよ』

観郷は疑問形で返された言葉に苦笑し、少しゆったりとした口調で正式名称を告げると、次いで少し声を潜めて続きの言葉を紡いだ。

『それと…これから観月ちゃんに見せるものは極秘中の極秘なの』
『極秘…?』
『そうよ』

そう言って観郷が指した方向に観月が顔を向ければ、いつの間に来ていたのか巨大なドームのような形状をした研究施設が目に映る。
人二人が歩くのがやっとという程狭かった通路は、車が数段並んで通れるのではないかという程広くなり、天井に至っては観月の身長を遥かに越えていた。
大き過ぎる施設の全体を把握しようと辺りを見回す観月の手を引いて、観郷は自分達から少し離れた場所にいるシモンズ達の元へ歩いて行く。
そこで全員が足を止め、茫然と"それ"を見上げている様に、観郷は人知れず見下すような笑みを浮かべた。



◇◆◇◆◇



「何だ、これは…」

小さくそう呟いた初老の男性――米国国防長官のジョン・ケラーは、目の前にある"それ"――メガトロンを畏怖の籠った瞳で見上げた。
メガトロンの巨大なその体は現在この施設で冷凍保存されているらしく、直立不動の状態を保ったまま動く気配はない。
だがメガトロンの持つ王者のような風格に気圧されたらしいサム達は、茫然と佇んでメガトロンを見上げている。

――不意に、今この場には似つかわしくない言葉が施設内に響き渡った。

「「ザ○、だと…!?」」
「「「「…は?」」」」

その言葉に施設内にいた全ての関係者が音を立てて固まり、一拍置いてから声の聞こえた方向に視線を向ける。
そこにはキラキラとした顔でメガトロンを見上げる、観月と観鶴がいた。
あいつ、いつの間に合流してたんだ?やら、○クってあの機動戦士…?やらの疑問が各々の頭の中で飛び交う中、観月と観鶴は興奮気味に喋り出す。

「ヤベェよザ○だよ赤い彗星のシ○アだよ池田○一だよ!!」
「ヤベェンだけどマジで○クにしか見えなくなってきたンだけど俺今かなりコイツを真っ赤に塗りたくって赤い彗星仕様にしてェンだけどつかかなりシ○アのイラストを描き殴ってやりてェンだけど!!!」

あれでもこいつ目ェ二つあるぜどうするよ観月、何だと許さん片方潰す絶対潰す完全なる単眼にして完璧な○クにしてくれるわ魔改造なら任せろ、等とメガトロンを見上げながら段々と息を荒げる二人に、サム達は顔を引き攣らせながら少しずつ距離を取り始めた。
その際に何か踏んではいけない物を色々と踏んでいそうだが、残念ながら今のサム達にそれを気にする余裕はない。
じわじわと退いて行く周囲を気に留める事無く、観月と観鶴はメガトロンの近くに控えるように立つ観郷に、ペイントを施す許可を求めている。
それにサム達は冷や汗を流し、観郷が彼らの要望を断る事を切に願った。

――頼むからこれ以上話を脱線させないでくれ…!!!――


「駄目よ」

観郷の凛とした拒絶の言葉が響く。
サム達がほぅ、と安堵したように息を吐き出した。
だが、現実とはなかなか思い通りに行かないものである。


「私が先にミ○ちゃん仕様にするんだから!!!!」
「「○クキターー!!!!」」




……………………。




ブルータス、お前もか…

その場に居た全員の心中が一致した瞬間だった。




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