ガシャン!!という衝突音と共に車が鉄の何かにぶつかり、その反動で全員が体を車内でぶつける。
その痛みに呻きながら体制を整える前に、両側のサイドガラスから入って来た巨大な鋼鉄の指によって、観月達の乗った車は軽々と持ち上げられた。
突然の出来事にパニックに陥った人間達をよそに、鋼鉄の指が車を少し揺さぶれば、揺さぶられた車は自重と人間達の重さに耐え切れず、ギシギシと音を立てて軋みだす。
そしてその次の瞬間には天井が剥がれ、天井という支えを失った車はコンクリートの地面の上に重い音を立てて落下した。
人間達が無くなった天井部を揃って見上げれば、その目には外した車の天井を傍らに投げ捨てるオートボット司令官の姿が映る。

サムは茫然としているシモンズ達を一瞥すると、オプティマスを見上げて口を開いた。

「あーあ、怒らせちゃったみたいだね。
 紹介しよう、こちら僕の友人の…オプティマス・プライム」
《子供を攫うとは、許せない行為だ。オートボット、こいつ等の武器を取り上げろ!》

オプティマスがそう号令を掛けると、近くの鉄橋の影から次々とオートボット達が現れる。アイアンハイドとラチェットがそれぞれの武器を向けてシモンズ達を威嚇し、その斜め後ろではジャズが右手を目一杯に開いた。

《銃をよこせ!》

ジャズのその言葉と共にシモンズやその仲間達の手から、まるで磁石に引き付けられたかのように、銃がジャズの右手に集まっていく。


――そして、当然それは見境がなく。

『ぐぇ、』
「ちょっとミツキ!?」
「君何で微妙に浮いてるの!?」

エナメルバッグと全身に仕込んだ武器が仇となり、今にもジャズに引き寄せられそうな観月にサムとミカエラは顔を青くさせ、ジャズに向かって制止の声を上げた。

「ジャズ!!早くそれ止めて!!」
「ミツキが危ないわ!!」
《お、おぉ…》

二人の必死の形相に若干気圧されながらジャズが右手を下ろせば、集められた銃は重力に従って地に落ち、微妙に浮いていた観月も車の後部座席に落ち着く。
その間にも話は進んでいたのか、いつの間にかシモンズ達は車を降りており、無抵抗の意思を示すように両手を上げていた。

観月は車の扉を蹴り開けると、己の両手首を拘束する手錠を外しにかかる。
物の数秒で外れたそれを指先で弄びながら、観月は自分を見下ろすラチェットとアイアンハイドを見上げた。

「…俺に何か用か?」

そう言って観月が首を傾げれば、アイアンハイドはそっぽを向き、ラチェットは肩を竦める。
観月は頭に疑問符を浮かべながら、サムとミカエラの元に歩いて行った。


「僕の両親はどこ?」
「私にそれを明かす権限は無い!…おい、何するんだ!」

観月がサム達に近付くと、そこでは丁度サムとミカエラがシモンズを問い詰めている所だった。
なかなか答えようとしないシモンズに、埒が明かないと判断したらしいサムはシモンズの胸の内ポケットを探り、先程車内で突き付けられた手帳を取り出す。

「公務執行妨害だぞ!」
「何でも許されるお墨付き?」
「…!デカイお仲間が来て急に強気になったな」

ぶつぶつと自分達を批難するシモンズを無視しながら、観月達は三人で手帳を見るが、本部の場所らしき物は記されておらず、個人情報や規則等が記されているだけだった。
サムは手帳から顔を上げ、再びシモンズに問いかける。

「本部はどこ?」
「知ってどうする?」

批難はすれどこちらが欲しい情報を一切口にしないシモンズに、観月は段々と苛立ちを感じ始めた。
不機嫌さを隠さずに盛大な舌打ちまで溢す観月だが、不意にその瞳がバンブルビーを捉える。
シモンズの後ろに移動したバンブルビーを観月とサム、ミカエラが不思議そうに見つめる中、バンブルビーは自身の股間に位置する何かの栓を取り去り、そこから液体を出してシモンズの頭にかけ始めた。
観月はその光景を鼻で笑い、ざまぁみろとでも言うように中指を立てたが、オプティマスの制止の一言により、その制裁はすぐに終了となる。


観月達は三人で手分けをして、エージェント達全員に手錠をかけていった。
しかし、シモンズのみ未だ手錠をかけられておらず、そんなシモンズの前にミカエラが立つ。

「それじゃ、服脱いで」

シモンズに手錠をかけようとしていた観月の手が、思わずぴたりと止まった。
一度シモンズと顔を見合わせ、同時にミカエラに視線を向ける。

「…何を言ってる?」
「着てる服脱いで。全部よ」
「何のために!?」

焦ったようにそう言ったシモンズに、ミカエラは一拍置いてから口を開いた。

「…父を侮辱したのと、観月を殴ったお返し」
『!』

観月が驚いたように目を見開けば、ミカエラは少し困ったように笑う。
それを横目にシモンズは言われた通りに服を脱ぎ、最後の悪あがきのように捨て台詞を口にした。

「お嬢ちゃん、覚悟するんだな。お前の人生は、終わりだ!!」
「…良いご趣味ね」

シモンズの下着――スーパーマンのマークを模したインナーと派手な模様のトランクスを鼻で笑って、ミカエラは最後にシモンズとその部下の男に手錠をかけ、傍らの柱に拘束する。
そんなミカエラを少し前に殴られた右頬を擦りながら、観月はちらりと一瞥した。

――自分が殴られた事を特に気にしていなかった観月にとっては、ただ痛みを思い出す原因になっただけなのだが、それでもその心遣いが素直に嬉しかったのだ。

シモンズを殴り返す事は出来なかったが、それはまた機会があるだろうと考え直して、観月は聞こえてきた車のエンジン音とヘリのプロペラの風を切る音に、腰元のベレッタをゆっくりと引き抜く。
そして自分のその動きに一斉に身構えたオートボット達に苦笑を漏らして、観月はベレッタを撃ち放った。





   Mouth kiss
    of
   death?

   "口は災いの元?"





(そう言えば、何であの時サムは口を噤んだの?)

(…僕にもよく分からないんだけど…なぜかすぐに黙らないと死ぬような気がして…)

((ギクリ))





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