『何でこの家には非常時の備えっつうモンが無ェンだよ!!!!!』
出てくンの武器ばっかじゃねェか!!!!と頭を抱えながら叫ぶ観月の足下には、様々な銃火器や刀剣が足の踏み場も無い程に散乱している。
――そんな飼い主の姿に、カエデは動物ながら少しだけ同情の念を抱いたのだった。
懐中電灯を探して家中のあちこちを物色したはいいものの、出てくるのは武器、武器、武器、と武器のオンパレードで、非常時の備えらしき物は一切見受けられない。
お前は某のスパイ夫婦の夫か!!!と叫びたくなる自分をなんとか抑えながら、観月は次々に現れる武器を床へと放り投げ、その足下に武器の山を生成していく。
ガチャガチャと音を立てて積み上がっていく武器の山は、既に観月の身長の半分程にまで達していた。
――ふと、辺りが騒がしくなっている事に気付いた観月は武器の山を3つ程生成した辺りでゆっくりとその手を止め、少々警戒した面持ちで部屋の中を見渡した。
観月の手に握られていた銃が音を立てて床に滑り落ち、外からの光を反射して鈍く光を放つ。
近くの窓から外の様子を窺えば、いつの間にか明かりが灯った周辺の民家がその視界に入った。
だが、その時観月の視界に入った物はそれだけで、特に騒がしさを感じさせる物は何も無い。
ならば、と観月が隣家のウィトウィッキー家に視線を向ければ、そこには色とりどりのロボット達ではなく、スーツと白衣を纏った男達が群がっていた。
『(…政府の人間、か…?)』
何でここに…?と訝しげに眉を顰めながら政府関係者であろう男達の姿をその双眸に映し、観月は直ぐ様窓から離れる。
そして足下で山を成す武器から小振りな物を選び取ると、それを身に纏っている衣服の中に仕舞い込んでいった。
ピンポーン…
観月が小振りな武器を粗方仕舞い終わり、さて次はと大振りな武器に手を掛けた瞬間、家の中にチャイムの音が響き渡る。
それを聞いた観月はぴたりと手を止め、眉間に皺を寄せながら忌々しげに舌打ちを溢した。
『ちっ、こっちにも来やがったか…』
うざってェな…と悪態を吐きながら、観月は仕舞いきれなかった大振りの銃火器や刀剣、カエデが銜えてきたウエストバッグの中身や非常用のパソコン(他人に見られたくない情報入り)等を近くのエナメルバッグに詰め込み、ある程度身形を整える。
そしてエナメルバッグを肩に掛けると、観月は面倒臭そうに階段を降り、玄関へと足を向けた。
ピンポーン…
『はーい、ただいまー』
玄関に着いた観月が一定の間隔で鳴り続けるチャイムの音にうんざりしながら扉を開けば、その目の前に黒いスーツに身を包んだ長身の男が観月を見下ろすように佇んでおり、観月をその視界に収めるや否や胡散臭い笑みで口を開く。
「おや、お出かけの予定だったかな?Mr.ミツル」
「…兄は昨日から出掛けていて今は留守です」
「伝言や荷物なら俺が預かりますけど?」と面倒臭そうに告げた観月に、男はわざとらしく驚くと軽く片手を上げ、いや、と短く否定の言葉を口にした。
それに観月が訝しげに首を傾げた瞬間、四方八方から一斉に男達が現れ、観月とその足下に居たカエデを取り押さえて拘束する。
観月が取り押さえられながら男を睨み付ければ、男は嘲笑うように鼻を鳴らした。
「我々は最初から君に用があったんだよ、Mr.ミツキ。
米国政府から直々に渡米を要請された君にね」
『………』
「まぁそう睨むな。我々に協力さえすればそう危害は加えないさ」
連れて行け、と男が指示を出せば、観月を取り押さえていた数人の男達が強引に観月を立ち上がらせ、ウィトウィッキー家の前に停められた黒いバンに押し込む。
そこで同じように拘束されて押し込まれていたサムとミカエラを見つけ、観月は盛大な舌打ちを溢したのだった。
What's done is done
"後悔先に立たず"
(巻き込まれたのは)
(彼等か、)
(私か)
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