観月が廃車置き場の入り口に着いた時、そこではサムが座り込んでいるミカエラを必死に立ち上がらせようとしている所だった。
観月はそれに小さく舌打ちを漏らすと、前方のサムに向かって声を張り上げる。

「サム!!テメェまだこんな所に居たのか!!早く逃げろ!!」
「無理だよ!!ミカエラを放ってなんて行けない!!」
『はァ!?変な所でヒーローぶってンじゃねェぞ、このヘタレ野郎が!!』
「日本語だと何言ってるか分かんないよ!!」
「とっととその姉ちゃん連れて逃げろっつったンだよ、ど阿呆!!」

観月は青筋を浮かべながらサムを罵ると、立て直して自身を追って来たらしいロボットに目を向けた。
しかし思いの外近いロボットとの距離に顔を顰めると、観月は背後で悲鳴を上げるサムとミカエラに気を配りつつ、再び銃を取り出して構える。

そして、観月が銃の引き金を引こうとしたその時。


ブォォォン


《「!!」》

サムを追い掛けていたあの黄色いカマロが、けたたましいエンジン音を立てながら観月達とロボットの間に見事なドリフトで滑り込み、その車体を勢いよくロボットの足にぶつけた。

足元を崩され、轟音を立てながら倒れるロボットを余所に、カマロは"乗れ"とでも言うように観月達の前でドアを開ける。
観月はベレッタを仕舞うと、サムとミカエラに駆け寄った。

「サム、彼女をカマロに!!」
「分かってる!!」

そう言ってサムがミカエラの腕を引き、なんとか立ち上がらせる。
しかし、ミカエラは突然の出来事に動揺してカマロに乗り込む気配がない。

観月は眉間に深く皺を寄せると、サムとミカエラを強引にカマロの車内に押し込み、自身も後部座席に乗り込む。

「カマロ、出せ!!」

観月がそう叫ぶと同時に、カマロは猛スピードで走り出した。
その後を先程のロボットがパトカーに変形して追い掛ける。

二台の凄絶なカーチェイスに、サムとミカエラは悲鳴を上げて座席やシートベルトにしがみついていた。





カマロは巧みなハンドル捌きでパトカーを撒くと、廃工場の敷地内に身を潜めるように停車した。
エンジンが止まり、ドアにロックがかかる。
車内に閉じ込められたという状況に軽いパニックを起こし、何とか外に出ようともがくサムとミカエラとは裏腹に、観月は至って冷静だった。
カマロと同じく静かに息を殺し、ただじっと外の暗闇に目を凝らす。


ふと、何かに気付いた観月がサムとミカエラの腕を制止するように掴んだ。


ミカエラは勢いよく観月を振り返り、サムは抗議の声を上げる。

「ちょ、ミツキ何す「黙れ」…え?」
「あのパトカー……居るぞ」
「「!!」」

観月の言葉にサムとミカエラが同時に前方を見ると、ゆっくりと目の前を横切って行く一台のパトカーがいた。
パトカーは観月達の存在に気付いていないのか、戻って来る気配は無い。

カマロはゆっくりとエンジンキーを回し、走り出す準備を始める。

「…行け、今だ」

サムがそう言うと同時に、カマロは土煙を上げて走り出した。
その音で気付いたらしいパトカーがバックで進路を塞ごうとするが、カマロは間一髪でそれをすり抜ける。
そして少し離れた広い場所に出ると、カマロは三人を車外に放り出した。

いきなりの事で受け身が取れず、地面に倒れ込んだ三人をよそに、カマロはパトカーと同様に金属のぶつかり、擦れ合う音を立てながら黄色いロボットに姿を変え、三人の前で拳を構える。
それを下から見上げながら、観月はサムとミカエラを庇うように立ち上がり、二人はそんな観月のパーカーの袖を縋るように握ったのだった。








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