「は、はぁ…はぁ、…っ」
「…サム、汗の量凄ェけど大丈夫か?」
「これが大丈夫そうに見えるなら、君は相当の幸せ者だよ!!てか何で君は平気なの!?」
「お前とは身体の鍛え方が違ェよ。一応これでもスポーツマンの端くれだ」
「何ソレ聞いてない!!」
「当たり前だ。今初めて言った」

自分の突然のカミングアウトにヒステリックに叫ぶサムに、観月はけろりと何食わぬ顔で返した。







車道を全力で漕ぐ自転車で走り抜けるサムと、それに並走しながら軽口を叩く観月。
二人は現在、人気の少ない高架下付近を走っていた。

観月がチラリと後ろを振り返れば、サムを追うおんぼろカマロがその視界の隅に入る。
それに少し考えるような仕草をした観月は、隣を全力で走るサムを横目で盗み見た。
そしてサムの状態と現状を脳内で照らし合わせ、結果、このままずっと逃げ続ける事は不可能だと結論付ける。

ならば何処かに隠れてやり過ごすのが一番無難か、と観月はすぐさま隠れられそうな場所を探した。
そんな観月の目に、十数メートル先にある人気の無い廃車置き場が映る。

「サム、あの廃車置き場まで頑張れるか?」
「…っ、なん、とかっ!!」

数メートル先にまで近付いたそこを観月が指差せば、サムはそこに向かって一気にスピードを上げた。
観月も少しスピードを上げれば、カマロもつられるようにエンジンを吹かす。
サムが無事廃車置き場に入ったのを見た観月は、少しフェイントをかましてカマロを引き離し、先に車の陰に隠れていたサムの近くに滑り込んだ。

出来るだけ小さく身を屈め、二人はお互いに息を殺してカマロが居なくなるのを待つ。
車と車の間から見える薄汚れた黄色が離れて行ったのをしっかりと確認し、サムと観月は深く安堵の息を吐いた。
そしてそれとほぼ同時、黒白に塗られたマスタングがサイレンの音を鳴らしながら表れる。

「あれは…」
「警察だ!」

助かったと言わんばかりの表情でパトカーに駆け寄るサムの後ろで、観月は少しの違和感に眉間に皺を寄せた。
パトカーのボンネットを必死に叩き、全く車から出ようとしない中の警官に助けを請うているサムの後ろ姿。

その向こうにあるパトカー自体への言い知れぬ違和感からかパトカーを遠目にじっと見ていた観月は、しかしふとパトカーの中の警官に眼を移す。
そしてそれが一瞬、投影された映像のようにブレた瞬間を観月は見逃さなかった。

ウエストバッグに放り込んでいた護身用の銃。
観月はパトカーが気付く前に、それを丁寧に衣服の下に仕舞う。

そしてその銃に右手をやりながら、観月はサムをパトカー…否、“得体の知れない何か”から引き離そうと手を伸ばした。





    I felt
 uncomfortable

   "感じた違和感"





(サムを助ける為に伸ばした手が彼に届く前に)

(私は)

(ヤツの“正体”を知る事になる)





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