ある亀の見た夢 | ナノ


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サイド:キスケ



「…ん」
「お、起きたか」
「顔が近いんだよハゲ」
「なァっ!?」

シッツレーな野郎っ。マトモな寝床に連れて来て介抱してたの俺なんだけど!?
安吾はぐったりしたまま、ぼんやりとした目つきでこちらを見た。俺が用意してやったのは、浅い竹カゴに古布をたくさん敷き詰めただけの寝床。まるで拾ってきた猫に作ってやったようで、はじめは笑ってしまった。
片腕をぶった切られてから2日。
蝉丸はふらりと姿を消してからまだ帰らない。アモルファスの名を聞いた魔族が時折様子をのぞきにくる以外、安吾を看病していた俺は取り立て面倒くさいこともなく過ごしていた。

「キスケ…ココはどこだ?はきだめか?」

悪態をついても少年の面立ちはあどけなく、俺は少し口許を緩めた。

「口が悪いのは変わらねーンだなア」
「別に、なにも変わっちゃいない。それに俺はまだお前らの言ってることの半分くらいわかってねえよ」
「イヤイヤ、そのうち嫌でも思い出すさ」

安吾は少し視線を泳がせた。

「俺は、人間じゃねえのか?」
「分かってんだろ」
「――分かりたくねえよ」
「そうかい。で、腕痛いか?」
「痛てえよ。当たり前だろ」

包帯だらけの安吾は、弱っていてもふてぶてしいを表情を崩さない。
片腕がないその姿は、俺を妙に喜ばせた。魔族特有の殺戮衝動なのだろうか。俺のなかの歪んだ感覚は、手負いの獣の唸り声を断末魔にしてやりたいと歯ぎしりしている。

「腕なんて、再生したらいいだろ」
「そんなこと出来るか。…生やしたら、また喰われるだけだ。蝉丸は俺の血肉が好きだからな」

無意識にでも、思い出してんじゃねえか。自分が蝉丸に「食われ」ていたこと。
俺はニヤリとした。

「あー、それもそうか。喰われたら困るわなア」
「ところで」
「あ?」
「あの後、タイチはどうした」
「おンやァ?気になるのかよ、あの王子サマ」
「だったらどうした」

俺は少し思うところあって、フウンと口の端を吊り上げる。気に入らない言わんばかりに安吾は目を細めた。

「はっきり言えよ、ハゲ」
「お前、ワンランク機嫌悪くなると俺の呼び名をハゲにすンだな」
「代名詞すら使わないほうがよかったか」
「スミマセンって。怒ンなよ。別に殺しちゃいねーよ」
「お前と喋ると、疲れる。うぜえ」
「安吾さ、お前変わったな」
「はあ?」
「お前が他人のことを気にかけるなんてなア」

しみじみ俺は言う。だが、安吾は魔族なら誰もが羨む真っ黒な瞳を虚ろにしていた。うつらうつらして来た安吾にジイッと見入る。意識を切り離す前に、奴はかすれた声で言った。

「タイチには、借りがあるからな」
「なるほど、借りねぇ」

夢うつつで安吾は続けた。借りがあるからタイチと共にいると決めたのだと。

「こりゃ、蝉丸が知ったらめんどくさそーだな」

眠ってしまった安吾を見下ろして、俺はつるりと頭を撫でた。

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