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「やれやれ」
ぐったりと気絶した安吾の様子を確認したキスケは、ちらっと地上を見下ろした。キスケの光る頭を見上げるタイチは、眉をぐぐっと寄せて爛々と光る翠の目を頭上に向けている。噛み締めた歯が、苛立ちを示すようにギリギリと音を立てた。
「テメエェ!こらハゲェ、安吾を離せよ」
「ウワオ。怖っえーなァ、第二王子様だっけ?瞳孔開いてンぞ」
「ウルセェー!噛み付け、安吾!」
「うおっ?!」
突然ガブリと腕に噛み付いた安吾に、驚いたキスケは力を弱めた。
「おおっと」
重力にしたがって落下しかけた安吾の身体を、キスケは瞬発力で伸ばした腕で引き止める。
「いてっ」
また、ガブリと安吾がその腕に強い力で噛み付く。キスケは、堪らず掴んでいた腕を離した。ぐらりと安吾の体が傾いで、キスケが噛み付かれた腕で安吾をぶら下げたような体勢になった。
「しめた」
その瞬間を狙って、タイチはボーガンを構えた。
「あー、イッテーの」
キスケは無理矢理安吾の顎を掴むと、力付くで腕から引き離した。細くしたたる赤い血に、やれやれと溜め息をつく。今だ!その頬目掛けて、タイチは矢を放った。
「王子様、無駄ですよって。俺、これでも魔族なンすから」
ニイィ、と気味悪い笑顔でキスケは笑った。
「ふぅっ」
いつかのゼノの魔術のように、キスケの吹いた空気は周りの風を巻き込みながら迫りくる矢にぶち当たった。ぐいん、と狙い定めたはずの矢が、キスケの一吹きでおこった風で大きく逸れたのを、舌打ちと共に見届ける。余裕の表情で舌を出したキスケに、タイチの心が歪んだ。
「ちっ」
「殿下、危険です!どうかお下がり下さいっ」
「無理無理。俺、やられたらやり返す主義だから」
ゼノの懇願を聞き入れずに頭上を睨み上げるタイチに、キスケは高らかに仕返し宣言をする。
「あー、フンッ」
口笛でも吹きそうな顔で、キスケは開いた5本の指先に鈍い光を放つ青黒い光球をともした。
「異世界帰りの王子様よ、拳銃くらい知ってるよな?」
BURRN!、と鋭くキスケが叫ぶと、その指先から弾丸のように光球が飛び出していく。拳銃だと!?なんで、と目を見開くタイチに、唸りをあげる光弾。
「シラアオア!」
ゼノが叫び、大きく魔術を展開する。
「うわ!」
轟、とタイチを庇うように風の壁を作る。巻き上がる突風に、ジンは舌打ちして風の壁から離れた。舞い上がる土埃で視界が遮られる。
「じゃ、さいならー」
ジンが再び視界に魔族を捉えた時、その姿は既に遠く霞んでいた。
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