ある亀の見た夢 | ナノ


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「何だこれ」

安吾とスキピオが昼寝をはじめてから約一時間後、一足先にタイチの部屋に戻ってきたジンは思わず独り言を落とした。目の前に丸まっているのは最近何かと気を揉まされている異邦人のガキと、泣き虫で有名な第三王子。寝ているうちに邪魔になったのか、道化の仮面は外れて転がり、安吾は素顔をさらしている。
丸まって眠る安吾の腹に抱き着いて、すぴすぴと寝息を立てるスキピオは、第三者からするとちょっと可愛い光景だった。しかし、あの人見知りの激しいスキピオ殿下が異邦人と昼寝とは。しかも廊下で!

「ジーンー、疲れたよー、安吾いる〜?」
「あ、殿下」

わざとらしくフラフラとした足どりで向こうからやってきたタイチに、ジンは手招きした。

「んー?なになに」
「珍獣が寝ています」

だっ、とタイチはスピードを上げてジンのところまで行った。

「うわーナニコレ。かっわいい〜」
「よく寝てますよね」

ひとしきり、タイチは二人の寝顔を眺めていたが、ちょいちょいと指でスキピオを揺すった。

「んー」
「おはようスキピオ。それ、俺のだからあんま触んな」
「ひっ」

目を擦っていたスキピオは、目の前の人物を認識すると小さく悲鳴を上げて安吾にしがみついた。

「重い」

寝ぼけ半分で安吾が呟いた。笑顔のタイチの額に青筋が薄く立つ。

「退け、タイチ」

呻くように安吾は言い、スキピオの服を掴んで引きはがした。安吾の寝ぼけた勘違いに、タイチの怒りは一気に平常心まで戻る。

「ジン、聞いた今の?!」
「え、あー、はい確かに」
「俺ら恋人同士みたいじゃん」

鼻歌でも歌いそうな様子のタイチは、引きはがされて泣きそうになっているスキピオを無視して安吾に抱き着いた。

「安吾ー!」
「黙れチャラ男。耳元で騒音公害起こすな。お前マジで二次元の世界の王子様と入れ代わって来い」
「あっちが願い上げだって」
「お前、自分で言ってて落ちこまねぇの?」
「いや、別に。てか、起きたね」
「お前、次生まれてくる時は目覚まし時計になればいい」
「そんなにヨかった?」
「卑猥なんだよ字の変換が!」

ぎゃあぎゃあ言いながら安吾がタイチをいっこうに突き放さないのは、抱き着かれているのを嬉しがっているわけではない。断じて違う。

「あああ、契約破棄してえ!タイチ殴れないとかありえねーし」
「愛のサンドバックが恋しい?」
「ああ恋しいね。怒りの鉄拳を腹一杯ご馳走してやりたい」

ジンは、ここ何日かでかなり正確に二人の関係を把握していた。ゼノほど身分を気にする性分でもないので、ジンには彼らの多少荒っぽい言葉のやり取りが、ただの日常と捉えられていた。

「殿下、スキピオ様はどういたしますか」
「わ、私は安吾といるぞ」
「ええ?何、何で懐かれてんのお前」
「あー、パシリだよパシリ」

ジンに聞かれるとさすがにまずいので、安吾はタイチに耳打ちした。

「安吾、安吾、傍にいてもよいだろ?だめ?」
「どーしよーか?」
「俺はタイチの道化だからな。傍にいたきゃコイツに頼むんだな」

スキピオはニヤつく兄王子を見上げた。

「兄上ぇ」
「んー」
「おねがいします」
「まあ、いっか。(子供だし)」

しぶしぶ頷いたタイチに、スキピオは目を輝かせた。ジンは、一応ヒッピアス殿下に報告しとくか、と思っていた。

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