ある亀の見た夢 | ナノ


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実際に被った異形の面は、思ったよりも軽くて視界もはっきりしていた。それに、口元まで覆っているわけではないので呼吸も楽だ。案外快適なお面だ。
ひそかに仮面を気に入っていたら、ゼノが勝手に話を進めていた。奴はどこまでも俺が気に入らないらしい。さっきなんか、視界に俺が入らないように微妙に顔を逸らしていた。
なんつーか、腹が立つというよりも呆れてしまった。どうもこの世界、アホが多い気がする。

「では、タイチ様は部屋へ」
「うん。安吾、行こ」
「へいへい」
「は?」
「え?」

ゼノが驚いた顔をして、タイチがアホっぽい声を出した。隊長は素知らぬ顔でジンを呼び付けて、ひそひそ話している。

「あの、同じ部屋になさるおつもりですか?」
「え、ダメなの?」

ヒッピアスは顎を撫でながらニヤリとした。

「道化者と王子が一緒の部屋に住むのは前例がないことでな」
「じゃあ、初めての例ってことで」
「タイチよ、お前は兄の遠回しな思惑を読む気はないのか」
「うん、全然」

余裕のあったヒッピアスの視線に、初めて苛立ちに近い感情が含まれたが、彼はすぐにそれを抑えると続けた。

「ではお前の隣の部屋に安吾用の部屋を付けよう。それなら異存はないな?」
「うん。話がわかるねえ、兄貴は」
「兄上と呼びたまえよ」
「イ、ヤ」

兄弟の戯れってやつなのか、コレ。俺、兄貴とは口きいたことなかったからな。ふと家族のことを思い出しかけた。

「――」

ヤバイな、記憶が曖昧で顔がぼやけてやがる。俺ってどんだけ孤立主義なんだろ、とか考えていたら、すぐにタイチの部屋についた。立派な二つ扉の大きな部屋は、まさに王子様仕様で豪華だった。

「こちらがタイチ様のお部屋になります。世話係は護衛も兼ねてジンが」
「おお、よろしく」
「は。お任せを」

あー、なるほど。事情を知っているジンに監視の役目が回って来たわけか。つうか、意外に使える人間いないのかね。それともそれだけ黒を忌んでいるのか。

「それでは、道化殿はこちらの部屋を」
「ヘエ」

示された部屋は、確かにタイチの部屋の隣にあった。ちらっと覗くと、たくさんの家具がある中に無理矢理押簡易ベッドが一つし込んであって、即席で作った“物置部屋”であることは明らかだった。

「今日はしっかり休みたまえ。父上には後日お会いするよう取り計らう」
「うん。じゃあ兄貴、これからよろしく」
「腹に抱き着くなと言っておろう。では、道化殿も休まれよ」
「どうも」

俺は口元だけ、ちょっと歪ませてみた。うまく皮肉っぽい笑みになったのだろう、ヒッピアスの口元がヒクリとしたので溜飲がおりた。

「では、失礼いたします」

タイチと安吾、ジンを残して、ヒッピアスとウィー、ゼノは部屋を後にした。

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