基がいつも優しいからって、少しわがままを言いすぎたかもしれない。静まった部屋に、基になんと言葉をかけてこの空気を壊していいか分からなくなる。
次第に響いてくる痛みに、また脂汗が吹き出してきそうだ。
さらり、と。基の指先がわたしの後頭部を撫でた。いや、撫でたと言うよりは触れたと言った方が合っている気がする。
「ごめん。無理言ったりして。具合悪いって言ってたけど動けそうだと思って……。痛みに気づいてあげられなくて、本当にごめん」
「違う」
寝返りを打って振り向くと、基は心配そうな顔をしていた。
あーっ、もうなんだよー。
「今のは全部わたしが悪いじゃん。どうして基が謝るの? 当たるなって、怒っていいのに」
「でも、俺だって無理強いしようとしただろ」
「基はわたしを心配してくれたんじゃん。なのにわたし怒鳴ったりして……その、ごめんなさい」
「いいよ。お腹が空いたら蕎麦茹でるから、いつでも言って」
「うん。ありがとう。……あ」
しまった。
完璧に目が覚めてしまったからだろうか、また下腹部の鈍い痛みが大きくなってきた。
「どうしたの? また痛くなってきた?」
「うん……。基の言うとおり、一回ご飯食べて鎮痛剤飲んでおけばよかったぁ」
痛みか、後悔か、基の優しさからか。分からないけど涙が出た。
「今飲む?」
「痛くなってからじゃ効かないんだよぉ」
「じゃあ、ジョニーが眠れるように俺、ずっとここにいるから」
そう言って握ってくれたわたしの手は汗ばんでいて、申し訳ないと思った。それでも基は深く手を繋いで、わたしを安心させてくれようとしていた。
もっと、しっかりしなくちゃな。わたし最近、基に甘えたり心配かけたりしてばっかりいる。
「出産したら生理痛を感じなくなったって話もよく聞くから、それまでの辛抱だね」
「うん」
「……ジョニー。俺と結婚しよう」
「は?」
こんなときに、一体どんなリアクションをすればいいんだろう。今、わたし生理痛で寝込んでなかったっけ。
何にせよ、唐突すぎやしないか。
「えっと……一応プロポーズなんだけど……」
「くくっ、あははっ!」
お腹は痛いのに、なんでか笑ってしまう。
「そんな笑わないでよ」
「ごめんごめん」
「で、俺と結婚してくれますか?」
「こんなわたしでよければ」
痛みを堪えながら抱き締め合うと、どちらからともなく笑みがこぼれた。
あぁ、幸せってこいうことなんだろう。こうやって家族ができていくんだ。
こんな堪え難い痛みでも、あなたの子供を産めるのならば頑張ってみよう。
そう思った。