サヨナラCOLOR・2 3

「トッキューという男社会の中で必死に喰らい付き、性という壁さえも越えようとする波乗りは、俺には輝いて見えた。正直、俺にはできない事だと思った」

 一つの可能性として認められたからこそ、戦うつもりではいたんですけどね。最終的には上層部も含め、周りは快くは思っていないみたいだった。

「波乗りが誠実にレスキューに向き合っていた事を、俺は知っている。これからのトッキューの為に尽力していた事も知っている。だからこそ、それでいいのか?と強く感じた。“自分の力不足だった”と繰り返しながら、本心では諦めらめきれないというお前の顔を、俺は忘れられないでいる」

 そんな顔をしていたつもりなんか、全くなかった。表に出るほど、私はその時悔しく、やりきれない思いが募っていたのかもしれない。

 でも、今でも分かってる。これでいいなんて、本当は一つも思ってない。

「あの時、本当は納得なんかしていないくせに納得した振りをして諦めるのか、と言いたくなった。だが、言ったら今にも泣き出してしまうのではないかと、お前の泣く顔を見たくなくて、言えなかった」

 夢だったトッキューを、諦めたくなんかない。私だけ青いヒヨコのまま終わるなんて、悔しくてしょうがない。

 だけど、女だからダメだったなんて思いたくなくて、全てを自分のせいにした。自分ができないから、自分に力がないからと。納得しているふりをして、悔しさを押さえ込んで去るつもりだった。

 「それでいいのか?」なんて言われたら、せっかく秘めたものが溢れ出してしまいそうになる。

 私の心は決まっていたのに、自分を守ろうとする部分が、口が、諦めばかりを口にしていた。

「でも、やはり俺自身も納得できなかった。だってお前はまだ熱を持っているだろう? 本当にそれでいいのか? お前が見たかった景色は、本当にお前の目に映ったのか? 初心を思い返せ。あんなにお前をたくましくさせた、強く、熱く、激しい理想を」

 強く、熱く、激しい理想。

 その言葉が、火をつける。

 私の胸の奥の、自分でさえ触れなくなったところに。

「俺はどうしても伝えたかったんだ。納得できていないその理由が分かっているなら、その思いを捨てるな、戦え。その諦めは誰の為だ? 本当の気持ちは分かっているんだろう? だから、目指したものを捨てるな。お前のたくましさに、俺も励まされたんだ。お前が海保からいなくなったら俺は……」

 その先を、期待してしまう。

 「トッキューは」とか、「海保は」とかじゃなくて、真田さん個人の感情がそこにはあるんだと、嬉しくなってしまう。

「……どれだけお前の働きが貢献になったか、自覚しないままいなくなったりするな。これからも一緒にレスキューをしよう」

「っ……!」

 気が付けば、荷物を持って駆け出していた。新幹線を降りた途端に、出発のベルが響く。

 パソコンをしまえば良かったのに、それさえも忘れて抱えて走る。しまっている時間さえも、惜しいと感じた。

 今ならまだ、間に合う。

 走れ。たとえヒヨコのままだったとしても、私はトッキューだったんだ。

 伝えなきゃ。

 真田さんが伝えてくれたから。

 後悔で、彼との最後を嫌なものになんかしたくないから。そのまま終わりになんかしちゃいけない。

 全力で、タクシー乗り場まで走る。

 先にタクシーを待っていた二人分の時間でさえも、もどかしい。

 胸が熱い。レスキューに対する思いが、真田さんに対する想いが熱を持ってしまった。もういいやと、しまおうとしていたところだったのに。

 タクシーに飛び乗ると、羽田へ向かった。

 着くまでの間、何度もあの歌を聞いた。真田さんの言葉を思い返しながら、ぶれない自分の想いに気付く。

 奮い立たされるほどの熱が、まだ自分の中にあることを自覚して、笑みがこぼれた。





 基地に近付くと、当直が終わり、今まさに帰ろうとしている真田さんを窓の外に見つけた。

「真田さん!!」

 こちらの声には気付かない。

 急いでタクシーを止めてもらい、足りる分のお金を置いて降りると、思わず駆け寄ってその腕を掴んだ。

「真田さんっ!」

「波乗り……。どうした? もう新幹線の中だと思っていたが」

「真田さんの声を聞いたら、いてもたってもいれられなくて、どうしても伝えなくちゃいけないと思ったから……降りてきました」

 言葉にすると、なんだか衝動的に動いた自分が恥ずかしくなった。

「……そうか」

 驚いたような表情の後の、笑顔。ときめいて、クラクラする。

 いつもの表情に戻ったかと思うと「歩きながら話そう」と言い、真田さんは歩き始めた。きっと、駅に向かうのだろう。

 笑顔にやられて、離したくないと思ったその掴んだ腕を、惜しみながら離す。真田さんの少し後ろを、息を整えながらついていく。

 真田さんは一度こちらを振り向くと、また歩き始めた。何も言わずに。

 ドキドキする。どう、思われるのだろうと。

 衝動で新幹線を降りてしまって、バカだと思われるかな。私が戻って来て、何か思ってくれるかな。

 息が整った頃に、真田さんの左へ並んだ。

「あのっ、動画とメッセージ、ありがとうございました。本当に嬉しかったです」

「ああ。石井達が作ってくれた。お前は少し誤解をしていたようだったからな。喜んでもらえてよかった」

「はい……すみませんでした」

「でも、波乗りは気が早いな。仙台に着いてから見るとばかり思っていた」

 真田さんからだと知ったら、やっぱり何時間も放っておけないです。とはもちろん言えない。


 3/5 

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