サヨナラCOLOR・2 5

 ずるいよ。

「真田さん」

「なんだ?」

 ずるい。人の気持ちに火をつけるのが上手いよ。

 どんなつもりで言ってるのか分からないけど、そんな風に言われたら抑えられない。

「好きです。伝えても困らせちゃうと思って、言わずにおこうと思ったいたけれど、やっぱり伝えずにはいられません」

「……」

 真田さんはしばらく固まったようにこちらを見続けた後、ぎゅっと手を握り直した。

 本当に、言わないつもりだった。自分でも驚いている。だけど、衝動で飛び出してしまうほど、想いが強くなってしまったんだ。

「そうだな。伝えずには、いられないな。俺も同じ事を考えていた」

「へ?」

「ごちゃごちゃと頭で考えるのは良くないな。こういうのはきっと、心のままに動いた方が伝わるんだろう」

 足が止まったかと思うと、強く抱きしめられた。

「好きだ」

 息が、止まりそう。

 頭が真っ白になってるのに、涙は勝手に流れ出る。

 今、私真田さんに好きって言われた?

 抱きしめられている事も、言われた言葉も頭に入ってこない。ドキドキと、真田さんの心音だけがある。

「やっぱり、波乗りにはストレートに言わないとダメだな」

 頭の少し上で、真田さんの声がする。

「……それって私が何も察せてない、ってことですか?」

「そうだな。人の事には敏感なのに自分の事には驚くほど鈍感だ。でも、そういう素直で不器用なところも含めてお前だからな」

「真田さーん!!」

 泣きながら好きだと叫び、それ以上なんてできないのに埋もれるほど強く抱きしめた。

 止まらない涙で、真田さんの胸はびちゃびちゃに濡れてしまう。泣きすぎて、鼻声になるのが少しかっこ悪い。

「さっき手を離し難くなると言ったが」

「はい……」

「帰したくなくなったな」

 困ったように笑うそんな初めて見る表情に、顔が赤くなるのを感じる。

「私も、帰りたくないですよ」

 せっかく想いを伝えられたのに。もうサヨナラなんて。次はいつ会えるかも分からない。

 この手を離さなきゃいけない時、きっともっと泣いてしまう。

「わぁ! 真田さん?」

「……」

 私の手を引いてズンズンと歩く。無言で。

 タクシーを見つけて乗り込んで、されるがままにそれに乗る。

「すみません、横浜まで」

「え!?」

「向こうでの勤務は3日後からだろう。一日こっちに泊まっても問題ない」

「問題……」

 ないかどうかは私次第なのでは。

「すまない。お前の事となると抑えが利かなくなる。歩いて帰るのもいいが、早く家に着きたい」

「えっ!?」

「そうすれば、少しでも長く二人でいられるだろう?」

 ……ごめんなさい。真田さんってせっかちさんなんだと思っちゃった。私、こんなに下心丸出しな考えで恥ずかしい。

「そんな顔のまま帰せないしな」

 タクシーのルームミラーを見ると、泣きすぎて目が真っ赤になって腫れている。お恥ずかしい。

「でも、もう泣きません。大丈夫です。嬉しい事がいくつもあったから」

 気付かせてもらった事も、みんなに思われていた事も、真田さんの想いを知れた事も嬉しすぎて。

 こんな風に考えが変わるほどの出来事が、私の人生で起こりうるなんて考えもしなかった。だからこそ、この人達の思いに応えられるように生きていきたいと思った。

「そうだな。想いが通じた事も嬉しいが、お前がこれからの道に希望を見出せた事が、俺は何より嬉しい」

 真田さんの言葉一つひとつが、私に希望を与えてくれる。

 きっと、これからも壁にぶちあたることばかりだと思う。新しい事をするという事は、そういうものだから。

 でも終わりだけじゃなく、それが始まりにもできると分かったから。私は私で良いのだと教えてもらったから、きっともう大丈夫。

 真田さんという大好きな、尊敬できる人に与えられた希望を、私はもう離す事はないだろう。

 私の胸には強く、熱く、激しい理想の火が着いてしまったから。それが燃え尽きることなく、進んでいきたい。私の憧れの人の隣に、並んでいられるように。





僕をだましてもいいけど
自分はもうだまさないで

 5/5 End.

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