たった。たった数か月。それなのに喜びを共有した事も、相容れない事も、許せない事も、助けられた事も、本当にたくさんあった。
私はもう、そこにはいられなくて、悔しさだけが残っていたけれど。
こんなものを作ってくれていたなんて。
私なんか、音もなくそこから消えていくだけだと思っていたのに。
涙が止まらなくなった。
声を堪えることができなくなりそうなほどに。
ありがとうと、言いたかった。
私の為にと作ってくれたそれを見て、初めて私の存在が許されていたのだと思えた。だって本当は、存在してはいけないのだと感じていたから。
存在を許されるということが、私にとってどんなに嬉しいことか。
受け入れられなくてもいいと、意地を張って険しい顔ばかりしていた自分が恥ずかしかった。
時折スライドショーに動画が混じって、パソコンに向かう不機嫌そうなメグルの背中と星野が映る。
「ただ今編集作業中でーす。メグルが頑張ってまーす」
「なんでオイがこがんこつ……。波乗りさん、勘違いすんなさ! 真田さんに頼まれたから、しかたなくやっとるだけばい!」
「と、カメラ目線で文句を言いながらもやってくれてまーす」
「星野君ウザか! 口だけ動かして何もしとらんし!」
「えー、俺素材集め頑張ったんだけどなぁ」
「おいメグル! せっかく写真並べてたのにおかしな事になったぞ!」
「ハァー!? タカみっちゃんまた余計な仕事増やしてー。これだからPC触れん奴は……」
「俺言われた通りにしたぞ!」
「とまぁ、こんな感じで非番とかに代わりばんこで手伝いながら作ってまーす。完成をお楽しみにー!」
ありがとう。
ごめん。本当に、ごめんなさい。
たった一人で戦っていたつもりでいた。本当は一人なんかじゃなくて、こうして、陰でみんなが支えてくれていたんだね。
なんて馬鹿だったんだろう。どうして気付けなかったんだろう。なんでこんなに自己中心的だったんだろう。
湧き上がる後悔や羞恥さえも塗り替えてしまうほどの感謝でいっぱいになって、溢れそうになる。
写真の合間に映る動画には、お世話になった隊長や隊員からの一言もあって、手を合わせるように目頭を押さえることしかできない。「よくやっていた」と、言ってもらえた事が嬉しくて、分かっていなかった自分に胸が苦しくなる。
だって、こんなにも。許されていたなんて知らない。
人を、きっと疑っていた。私なんか必要とされていないのだと、自分が一番自分を認めることができていなかった。
きっと、存在してはいけないと思い込んでいたのは、私の方だった。
もっと周りを信用していたならば、結果は変わったのかもしれない。いや、きっと変えることができたのだ。
もうそれも、詮無きことだと分かってはいるけれど。
「ごめんなさい……」
思わず言葉に出てしまう。
トッキューの人達のメッセージは、全てが温かい。私の駄目な部分を理解しながら、愛のある言葉をくれる。どんな思いで、このメッセージをくれたのだろう。
そして、メグルがどんな思いでこれを作ってくれたんだろう。あんなにもぶつかり合っていたのに。
歌に合わせて変わる写真や効果に、考えて作ってくれたのだと感じる。メグルの思いに、やっと少し触れられた気がした。
スライドショーが終わると、鼻をすすりながら、すぐさま2と書かれた音楽データを開いた。
すると、「あー」と、真田さんの声が聞こえる。
「!?」
「これを聞く頃には、もう仙台に着いているだろうか。波乗りに、きちんと伝えたいことがあった」
それは、真田さんからの、ボイスメッセージだった。
しんとする部屋に、真田さんの声だけが聞こえる。
「石井が作ってくれたスライドショーは、見てもらえただろうか。送別会もできなかったので、せめてもの気持ちでトッキューのみんなで写真やメッセージを集めた」
ええ。本当に、ありがとうございます。とても嬉しかったです。
間を置きながら、言葉を選ぶように話す真田さんの声は、姿が見えなくても私を安心させた。
欲を言うなら、喋ってる真田さんの動画も欲しかったけれど。
「スライドショーで使う曲は、俺が選んだものだが……」
えっ、真田さんが選んでくれたの?
真田さんが選んだものだと知って、もう一度、歌をしっかり聴きたくなった。
「あの歌を聞いたとき、波乗りの顔が思い浮かんだ。資機材倉庫で話をして、本当はもっと伝えたいことがあったが、上手く言葉が見つからなくてな……」
私も、あんなに感情的にならずに、きちんと話をすれば良かったと、後悔していた。
あれを最後にしてしまうなんて、真田さんにとっても最低の終わり方なのではないかと思っていた。
「俺が伝えたかったことは、全てあの歌にあった」
真田さんの、伝えたかったこと?
私は一度ボイスメッセージを止めると、携帯を開きサヨナラCOLORの歌詞を検索して、もう一度スライドショーを再生した。音楽を聴きながら、歌詞を追う。
繊細な音楽が真田さんを思い出させて、ゆるやかに私の心を切なくさせる。歌詞に疑問を投げ掛けられるたびに、諭されるたびに、胸が苦しくなった。
全ての言葉が真田さんからだと思うと、なぜあの時もっと素直な気持ちを伝えられなかったんだろうと、後悔するばかりだった。
スライドショーのウィンドウを開いて再生を続けたまま、ボイスメッセージの続きを再生する。音楽が真田さんの声に重なって、優しく流れる。