「そうですよね。でもあまり緊張しなくて大丈夫ですよ。えー、休日はお一人で過ごすことが多いようですが、現在恋人は?」
「いない。知っとるくせに」
「知ってるけど、インタビューだから。『募集中です(笑)』って書いておくから」
「そうしてくれ」
「仕事上で出会いってありますか?」
「正直、海保の中だけってのは出会いも多くない。合コンだってそれなりにするしのう」
「えっ、例えばどういう方と? これはただの純粋な興味なんだけど」
「あー、多いのは看護士さんかのう。海保の中でってのもあるし、ベタに誰かの友達とか」
「へー。身内でも合コンとかするものなの?」
「ワシらのところは、ほんに男しかおらんからのー。そりゃあするじゃろ」
「そうなんだ。じゃあ、救助から始まる恋っていうのはどうですか?」
「どうって……まぁ、ありじゃとは思うけどなぁ。実際、助けてくれてありがとうって菓子折り持ってくる人もおったし、そこから発展させようと思えば……のぉ?」
「ほうほう。これは読者が食いつくわ」
「わざと事故になるような真似はせんように書いとけよ。ああは言うたけど、実際はそんな愛だ恋だ言うてる場合じゃないからのぉ。生きるか、死ぬかじゃ」
「もちろんです」
ミルクティーを飲みながら、アタシの知らない大羽をたくさんの知って、読者にどんな風に「大羽隊員」を知ってもらおうと考える。
記事を書いているときや修羅場の後の発売日も好きだけど、この仕事で、アタシはこの時間が一番好きだった。
記事用のスナップを取りながら、記事のレイアウトを想像する。
何から何まで自分一人でというのはやはり大変だけど、何でも自分の意見を試せるというのは、思った以上に面白いことだと知った。
チャンスをくれた編集長に再び感謝するとともに、絶対に成功させてやろうと心に決めた。
「では最後に、大羽隊員にとって、仕事の魅力とはなんですか?」
「人を、助けられるところ」
「……人を助けられるところ、ですか?」
一呼吸置いて、静かに大羽は言った。その目は、どこか寂しげに足元を見ている。
「昔、人を助けられんかったことがあった。そん頃ワシはまだ保大に入ったばっかでの、潜水士になろうとは全然思っとらんかったんじゃけど……」
人生の中で言えば、中学高校のたった六年。それでもアタシはそれだけで大羽のほとんどを知ったつもりでいた。
正義感の強い大羽の口から「助けられなかった」と聞くとは思っていなくて、仲間を大切にする大羽だからこそ、その言葉がショックだった。
アタシの口から言葉が出ることはなく、大羽は続けた。
「目の前で事故があった。それでもワシは助けることさえできなくて、助けられるはずだった人達を、ワシは助けられんかった」
「だから。人を助けられるようになった今では、悔しい思いだけじゃなくなった」と、大羽は笑った。
成功なんて確実じゃない。それでも彼らはそれを限りなく確実にしていく努力をしてる。
なんだか、胸が熱くなった。
アタシも本気で全力で、一生懸命に仕事をしていこうという熱が込み上げた。
午前中でインタビューを終えると、アタシ達は喫茶店を出て官舎へ向かった。
本当は休日の過ごし方もクローズアップしてみたかったけど、今日は勉強をすると言う。
邪魔はできないと思い、三十分程度写真を撮ったり軽く話を聞いてから、記事の編集作業を始めようと編集部へ戻ることにした。
アタシは今、仕事が楽しくてしょうがない。半面、友達として知らなかった大羽の一面を知ってしまい、戸惑っている自分がいた。
内容がショッキングだったこともあるが、それよりも何よりも、自分は大羽のことを知ったつもりでいたから。
六年間ずっと一緒だった。大羽の好き嫌いも行動パターンも、色んなことを知ったつもりでいた。保大に入ってからのことなんか、何にも知らないくせに。
きっともっと、アタシの知らない魅力がたくさんあるのだろう。仕事の魅力も、大羽の魅力も。
「やってやる!」
その魅力を引き出して読者に知ってもらおう。アタシの心はまた燃えていた。
「あ、編集部戻る前に携帯ショップ行って電話帳コピーしてもらおう」
そしてアタシは携帯ショップに寄ってから編集部へと戻った。