「ええぞ。持っていくなら、これかこれじゃな」
大羽が自信満々に差し出した二枚の写真は、それはそれは素敵な写真だった。
劇中で主人公が掛け下りる街の階段、周囲から木漏れ日が降り注いでいる。そして夕日色に染まる街並み。行ったこともない街に、懐かしさを感じた。
アタシはそのオススメの二枚を借りることにして、大切にバッグのファイルへとしまった。
「なんか飲むか?」
「なんもないけどのぉ」と冷蔵庫をあさる大羽に、一応「お構い無く」と伝える。
数秒後、出てきたのはペットボトルのお茶。本当に構われなかったのは久しぶりだ。まぁ、いいけど。
「あとは何か見るんか?」
「うーん、もう少し細かいところ見せてもらいたいかな。悪いね、仕事終わってんのに」
「ええて。とりあえずワシは着替えてくるから適当に見とけ」
「ありがとう」
本棚を見れば小難しいことばかり書いてあるようなテキストがいっぱいあったり、勉強した証のノートもあった。きっとトッキューってところは、体力だけじゃ通用しないんだな。
机の方を見ると、小さなコルクボードに二枚の写真があった。
一枚は日付からすると、ヒヨコ時代のものだろうか。おそらく百キロ行軍と言われるときのものだろう。以前二ノ宮さんと行った取材で、大口さんや安堂さん達のを見たことがある。
もう一枚は高校の卒業式の写真だ。アタシと大羽は勿論、仲の良かった友達みんなと撮った写真。
何年も経っているのに、こうやって写真を飾って友達や仲間を大切に思っているんだなぁ。
大羽の魅力は、きっとここなんだろう。お節介な程に、仲間を思う気持ちが強いところ。
今度のインタビューでは、そんなお節介をやいたエピソードがないか聞いてみよう。
「!」
ゴオオォッという音に驚いて窓の外を覗いてみると、目の前には高速道路があって、街並みから都会であることを思い知らされる。
アタシや大羽の故郷が田舎ってわけではないけど、東京や神奈川の中心部に比べたら都会ではないし、こんな風に目の前に高速が通ってるなんてことはなかった。
最近広島に帰ってなかったし、その内溜まった有休を使って里帰りでもしようかなぁ。
「さーて、そろそろ帰るか」
着替えるだけにしては遅い大羽を呼ぼうと口を開くと、呼ぶと同時にインターホンが響いた。
とっくに着替え終わっていただろう大羽が、洗面所の方からやってきて扉を開いた。