でも、別れたいと言われたら? 基くんの行動は本物で、全ては姫子への想いでいっぱいで、アタシと別れたいと言われたら。
……まだ、答えは簡単には出そうになかった。
いつも通りなら去るものは追わないふりで、手放すだろう。でもアタシは基くんがすごく好きなのだ。
手放したくない、それが本心。格好つけて別れを選ぶなんてこと、今のアタシにはできそうにもない。
「おい、聞いとるんか?」
「……ごめん、聞いてなかった」
我に返り、こんなことじゃいかんと自らの両頬をピシピシと叩いた。
「はぁ……。星野のことでも考えとったんか」
図星を刺されながら、さっき仕事中云々ぬかしていた自分を思い出して首を横に降る。
「まさか! 仕事中!」
「仕事中とか、もうええじゃろ。他の人がおるわけでもないし」
「でもさ」
「でも、とかそんなんええんじゃ! ええか、一個言うとくぞ。問題から逃げようとすんな!」
「はぁ? 逃げてなんかない!」
カチンときて、声をあらげる。アタシが逃げるだなんて、そんなことあり得ないのだ。
「どうせお前のことじゃ、時間が解決するとでも思うとるんじゃろう」
言葉に詰まれば、大羽はちらりとこっちを見てため息をついた。
「でも今、お前が抱えてる問題は一人で解決できることじゃない。……ここまで言えば解るじゃろう?」
お節介な大羽のことだ。話し合えと言うつもりなのだろう。
話し合いくらいするつもりだ。いつまでも放っておいていい問題じゃないことくらい解るし、話し合いなしに解決することじゃないのも解ってる。
だけど、心の準備がいるんだ。
「……解るけど、もう少し待ってよ」
「それを言うのはワシじゃないじゃろ」
「うん」
応援されているような、急かされているようなもどかしさを感じさせながらも、大羽は「少しは星野の話も聞いてやれよ」と言った。
大羽は何か知っているんだろうか。まあ、仲の良い基くんと大羽のことだ。連絡を取り合っていてもおかしくはない。
もし、何か知っているんだとしたら大羽はかなりの意地悪だな。そんなことを思いながら、お節介な大羽を見上げた。
変わらないこいつが隣にいると、安心する。大羽とは一生仲の良い友達でいれるんだろうなと思った。