14-防基1

「おはようございます! 今日からよろしくお願い致します!」

「おー、朝っぱらから元気じゃのー」

 今朝電車で大羽の部屋を訪ねると、すでに準備万端な様だった。

 時間になって官舎を出るが自転車や車に乗る様子がなく、駅に向かうわけでもない。

 まさかと思い聞いてみると、大羽は官舎から防災基地まで走っていくと言うのだ。実際、走ってきた。時間はおよそ四五分。

 まぁ大羽は良いとしよう。ヒヨコの頃から走って通っていたというのだ。体力があるならば体の為に走る方が良い。

 アタシはと言うと……密着取材という理由で一緒に走った。そんな体力や元気があると思ったのだ。まぁ、正しくは後ろを必死に追いかけたのだが。

 肺の底から息を吸い上げ、限界まで吐ききるような呼吸。足は重い。そんな中、この体験談をどう文章にしてやろうかと考えていた。

 大羽も免許は持ってるくせに、どうして車はこっちに持ってこなかったんだろう。

 所詮は国家公務員。転勤を覚悟してのことだろうか。それとも急な移動だったからか? どっちにしても、ないよりあった方が便利なのに。まあ、アタシが言えた話じゃないが。

 アタシが防災基地へ着いたのは、大羽に遅れて十分後のことだった。我ながら頑張ったと思う。

 すでに大羽や他の三隊の方は着替えも済んで、プールの横で雑談をしているところだった。

「あ、『GoingレスQ』の波乗りさんだ」

「ぜぇっ、ハァ……ハァッ!!」

 転げるように施設内に入ると、三隊の副隊長になった大口さんが見つけてくれた。

 実は大口さんとは知り合いだった。アタシが新人の頃に大口さんはトッキューの新人で、例のゴールデンウィークなんかも取材したことがある。

 「おはようございます」と、声を出したいが呼吸を繰り返すことしかできない。口をパクパクと動かせば、大口さんは悟ったように「おはよう」と言ってくれた。

「大丈夫?」

「は、ハァ……ッ! はい、っ」

「どうしてこんなことに?」

 呼吸が整わないまま事情を説明すると、「現役トッキュー隊員に付き合ってたら体もたないよ」と、笑いながら座れる場所へ連れていってくれた。正しくは、引きずってくれたと言ってもいい。

 ボロボロの姿に他の隊員達にも笑われながら、改めて挨拶と自己紹介をする。

 時間になりブリーフィングが始まると、端の方でメモを取った。

 訓練内容など分かりにくいことは隊長の嶋本さんが説明してくれ、訓練と密着取材は三隊の皆さんの協力のおかげでスムーズに進んでいく。

 午前のレンジャー訓練を終えると三隊と一緒に昼食をとる。アタシは隊員達に大羽についてインタビューをしながら、休憩時間の合間にやれるものはできるだけ体験させてもらった。

 「大変そうでした」と書くよりも、「これくらい大変でした」と読者目線で書いた方が伝わりやすい。そして見ているだけで書いた文と、やってみて書いた文は全然違うからだ。

 その辺の取っ掛かりで懸垂をしようとしてみたり、潜水用のボンベを背負って走ってみたり。昔から体力に自信があっただけに、見た感じできそうだが実際は全然できなくて驚いた。

 やはり鍛えられた人は違うなぁと思いながら、同時に取材に協力的な三隊さんに感謝した。こんなにもフレンドリーかつスムーズに取材ができるなんて。

 礼を言いながら午後の潜水訓練を見学した後、夕方に羽田からの連絡があった。準待機の隊までもが出動してしまったので基地に詰めてくれとのことらしい。

 アタシも三隊に混ざってバンに乗り込み羽田基地へ戻ると出動していた隊がちょうど帰ってきたところで、三隊は基地長に言われた用事を済ませると定時になり解散となった。

 帰りは整備場前から電車に乗り、大羽の歩幅に合わせて歩いていく。

「訓練お疲れさまでした。仕事が終わった後はいつも何をなさってるんですか?」

「それも取材の一部か?」

 大羽は背伸びをしながら横目でこちらを見た。

「もちろん。密着取材なんで。……まあ、嫌なら明日の待機の間にまとめてインタビューさせてもらうけど」

「ならそうしてくれ。仕事モードのお前と話しとると、なぁんか変な感じじゃ。っていうか、仕事モードのお前は他人行儀であんま好かん」

「好かんって……だって、友達だって言っても仕事中だし。そこは割り切らないと」

「そうは言うがお前は変わりすぎ。極端なんじゃ。もし取材対象が星野じゃったら、いっそう他人のふりなんじゃろうなぁ」

 ははっと笑う大羽に、言葉は出なかった。

「……」

 後で大羽に指摘されるまで、自分では気付いていなかった。基くんの名前が出てくるだけで、眉間にシワを寄せてうつむいていたなんて。

「別に他人のふりなんかじゃなくってさ、社会人としての振る舞いだって。あいつら付き合ってるからとか、友達だから、なんて仕事中に言われたくないし、心外だよ」

「そうか」

「いいよ、分かった。じゃあ今日は予定通り、官舎の部屋ちらっと見せてもらったら帰る」

「おう」

 途中コンビニに寄って晩飯らしい弁当やおにぎり、飲み物を買って官舎へ向かった。

 なんとなく仕事の話をしながらアタシの様子をうかがっている大羽がいて、「どうしたの?」なんて聞いたらまた基くんの名前が出てきそうで、やめた。

 別に基くんの話をしたくないわけじゃない。だけど大羽に名前を呼ばれると、あの時の惨めなアタシを思い出して、基くんのことを考えてしまうから。

 アタシは……基くんもそうだけど、これからどうするつもりなんだろう。

 別れる? そんなこと考えてもみなかったし、こんなことになった今でも別れたいとは思わない。だって、まだ好きだから。

 好きだからこそ姫子のことは許せないし基くんに対し怒りはあるけれど、それでもアタシから別れを告げる理由には足りなかった。

 だから今は離れていた方がいいのだ。今近づいたらきっと、それさえも壊れてしまう気がするから。

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