大羽は財布や化粧品を拾い集めると、またアタシを抱えて路地に入り、適当な場所に腰かける。
派手に転んだお陰で目立ったアタシを、人目が付かないところに連れてきてくれた。
足首が痛むのは、バランスを崩した時に捻ったからか。顔面から着地したせいで口の中を切った。鼻水が垂れたと思って拭ったそれは鼻血で、いい歳した女が何やってるんだと思う。
目が腫れるより何より、不細工で汚い。
「おい、ほんま大丈夫か。頭打ったじゃろう」
おでこには擦り傷ができているようで、触れられるとヒリヒリした。
大羽はアタシのバッグから使えるものを引っ張り出すと、てきぱきと傷や怪我の処置をする。
「足、痛むか?」
痛くないわけがない。全身傷だらけだ。体も、心も。でも答える気にはなれなかった。
呆然と、基くんが彼女とあそこにいた理由を探していた。本人じゃないから正解なんて分からないけど、答えは簡単に出る。
彼はまだ彼女が好きで、お世話になった人へのプレゼントっていうのは彼女へのプレゼントで、友達が事故ったっていうのは……。
そこだけはせめて、本当であって欲しいと願った。基くんが他人の不幸を利用したり、そんな嘘をつく人じゃない。そしてレスキューマンとして、あってはならないことだと思うから。
考えたところで言い訳をしてくれる人も、正解をくれる人もいない。
追いかけてもくれない君に、もう涙は出なかった。