08-雑貨屋1

「行きたいところは決まった?」

 お昼を喫茶店で済ませたアタシ達は、ショップが建ち並ぶ通りを歩いていた。

「少し買い物したいかな。何が買いたいってわけじゃないんだけど」

「良いよ。俺もちょうど見て回りたかったんだ」

 アタシ達は大人だから手を繋がない。いい歳して人前でベタベタして、と思われたくないからだ。

 以前はそうだった。だけど、基くんと付き合ってからは手を繋ぎたいとウズウズしている。周りのカップルに、憧れてしまうのだ。

 何度か外で手を繋いだことがあるけど、恥ずかしくて慣れなくてちょっとしたタイミングで手を離してしまった。

 今日も周りにはたくさん手を繋いで歩くカップルがいる。アタシも今日こそは手を繋いでデートしようと思う。が、アタシが言い出せるわけもない。

「今日のジョニー、すごく可愛いよ」

「えっ、あ、どうも」

 突然さらっと言われ、慌ててしまう。普段と違う褒められ方に、顔が赤くなるのが分かる。

「基くんは、こういうの好き?」

「うん、結構好きかな。でもジョニーなら何だって好きだよ」

「……」

「ははっ、顔真っ赤」

「基くんって、ほんと意地悪だよね」

 時々こうやって意地悪なことを言われたり、照れるようなことを平気で言ってのける基くんも嫌いじゃない。

 手を繋ごうと提案するよりも恥ずかしくて、やっぱりこんなことだけで照れているようだったら、提案なんてまだまだできないと思う。

「あ、ここ見たいな」

「雑貨屋?」

「うん。お世話になった人の誕生日に、何かプレゼントしようと思って」

 その雑貨屋はポップな色使いの店構えで、店内にはカラフルな雑貨が並べてあった。

 奥にはカーペットやクッション等の生活雑貨もあり、何だか色々と部屋に欲しくなってしまう。二階では洋服やアクセサリーも取り扱っているようだ。

 基くんは形の可愛い入浴剤やキャンドルを手に取りながら「う〜ん」と唸っていた。

「良いのはあった?」

「う〜ん。これどう思う?」

 それは小さな木箱に詰められた入浴剤と石鹸のセットだった。フルーツの形をした入浴剤が、独特の香りを放っている。

「あぁ、これは女の子に人気があるんだ。形も可愛いし女の子は基本的に長風呂だし、貰ったら凄く嬉しいって評判で。うちのファッション誌で、読者アンケートのプレゼントにするくらい」

「そうかぁ。じゃあ、これにしよっかな。お世話になった女の人も、長風呂だって言うから」

 てっきり男の人だと思ってた。最近ぼんやり思ってたけど、基くんはやっぱり異性の知り合いも多いみたいだ。

 基くんの知り合いの人って、どんな人なんだろう? なんとなく、基くんと似たような雰囲気を持つ人なんだろうなと思う。

 基くんが会計をしている間、アタシは二階のアクセサリーを見ていた。

 普段は着けないだろうアクセサリーが、今日は可愛く思えるのはなぜだろう。普段と違う格好をしているからだろうか。

 ふと、ディスプレイのペンダントに目が止まる。硝子でできた小さな薄ピンクの薔薇。貴子に似合いそうだ。

 店員によると去年のクリスマスに出てからずっと人気のものらしい。色違いで薄い緑や黄色いものがあり、アタシは緑と黄色のものに心を奪われてしまった。

 貴子へのお土産もある。安物ではあるが、こういうものが好きな貴子は買っていったら喜ぶだろう。

 小さな薔薇だから会社にしていっても良い。使い勝手が良さそうで、ついでにアタシの分もと手に取った。

 黄色は貴子ので、緑色のはアタシの。お揃いの物を持つなんて、学生以来で少し気恥ずかしい。

「何か欲しいのがあった?」

「わっ! ビックリした〜」

 レジへ向かおうと振り替えると真後ろに基くんがいて、後ろへ飛び退くくらい驚いてしまった。心臓がドックンドックンとうるさい。

「もう良いの?」

「うん。それが欲しいの?」

「あぁ。うん、可愛いなーと思って」

「見せて?」

 手のひらに乗せた二つの花を見せたとき、基くんが泣きそうな顔をした気がした。

 次に見たときにはいつもの笑顔で、あれは一瞬の出来事だったけど目に焼き付いてしまった。

「なんかちょっとジョニーと雰囲気違うかなぁ。こっちの方が似合うと思うんだけど……」

「あ、でも友達にも買って行きたくて」

「他にも見てみようよ」

 アタシはそこまで鈍感なわけじゃないし、普通に分かってしまう。嫌なんだな、と。

 本音を言うと、本当に気に入っていた。それでもこの貴重な日に気まずくなんかなりたくなくて、アタシ達は薔薇のペンダントを戻して店を出た。

「今日は暑いね」

「うん。昨日までジメジメして肌寒かったから嬉しい」

「そうだね。そういえば、その服どうしたの?」

「さすがにシワシワのスーツなんてひどすぎるから、貴子に借りたんだ」

「そっか、だからいつもと違う雰囲気だったんだねー」

「うん」

 さっきから基くんが、というより二人の空気が変な感じだ。普通にしようと思えば思うほど、なんだかぎこちなくなっていく。

 きっと、あのペンダントを見たときから。

 アタシは、こんな風になりたかったんじゃない。基くんだって同じはずだ。

 思い切って聞いてみよう。言いたいことも言えないような関係を続けて、二人とも気まずい思いをする必要はないのだ。まあ、聞いて気まずい思いをすることも多いだろうけど。

 ドキドキする胸を撫でながら、思い切って言葉にする。

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