06-貴子の家2

「うちの店とは少し系統違うけど、うちの会社で新しく出したブランドがあってね、そこの服がまたすっごい可愛いんだよ〜! おかげで先月も九万使っちゃった」

「九万!? あんた本当に好きだねー」

「うん!」

 笑う貴子は本当に幸せそうで、アタシを着飾らせることが楽しそうだったから、アタシは大人しく目を閉じてタオルの冷たさを感じていた。

 その後も、あーでもないこーでもないと言いながら服を出してはしまい、アタシに服を当ててみたり小物を持たせてみたり、服を選ぶのに三時間が経った。

「よし。これでバッチリ!」

 結局は最初に引っ張り出したワンピースに、あってもなくてもいいような薄手の羽織もの、ぺったんこのパンプスとハンドバッグだった。

 着替えて思う。似合わねー!!

「ねぇ、なんか変じゃない?」

「変じゃありません! 着なれないからそう思うだけで、とっても似合って可愛いよ」

「それにこれ、あってもなくてもいいんじゃない?」

「こんな日差しの強い日に肌をさらしちゃダメ! それにこういう暑い日は、お店に入るとガンガン冷房ついてるから絶対寒いよ」

 さすが、よく分かっているようで。日焼けは別としても、店で寒いのは堪えられない。

 納得したアタシは身支度を始めた。アタシがメイクをする傍ら、貴子がアタシの髪をとかしセットしていく。

「内巻きなんか似合わないよ〜」

「いいの。今日は思いきってイメージチェンジ! 似合わないなんてことないよ」

 もうなすがままだ。

 おしゃれ好きな貴子にはいつも負けてしまう。実際貴子に選んでもらったものは評判も良くて長持ちするものが多く、そういうセンスに関しては信頼している。

 が、やはり趣味が違うので戸惑うことがあるのも事実だ。

 昔合コンに連れていかれたときは今まで着たこともないヒラヒラの服を着せられたことがあったっけ。

 さすがにその時は服を返していつも通りの服で行ったけど、アタシだけ服装が浮いていたのを覚えてる。

 貴子はTPOを考えて選ぶのが上手い。だから信頼している。

 きっといいスタイリストになるだろう。本人は結婚して子供を産んでもずっとショップ店員でいたいと言っているけど、勿体ない気もしてしまう。

「できた!」

 メイクも終え、髪も整えアクセサリーもした。鞄も持ち変えてあとは出掛けるだけだ。

 姿見で確認すると、まるでアタシじゃないみたい。だけど可愛くできてたから、少し嬉しく、照れくさかった。

「あ、あと眼鏡だけ貸してもらっていい?」

「眼鏡? いいけど……じゃあ太渕のピンクにしようか」

「ありがとう。目の腫れが完全に引かないから眼鏡で誤魔化そうと思って」

「そっか。でもメイクで出来る限りそう見えないようにしてるし、ジョニーちゃん普段眼鏡かけないから余計に目がいくと思うけどな」

「しない方がいい?」

「うーん。でも眼鏡かけたジョニーちゃんも可愛いから許す!」

「許す? まぁ、ありがとう」

「借りてた本は持ってきたバッグに入れておくね。すごく勉強になったよ、ありがとう」

「うん。じゃあ帰ってきたらまた寄らせてもらう」

「一日中ヒマだからいつでもおいで。いってらっしゃ〜い」

 履き慣れないパンプスを履いて手に馴染まないバッグを持つアタシは、今日だけ特別になった感じがする。

「行ってきます」

 自然と笑顔が溢れた。やっぱり貴子は素敵な子だ。こんなにもアタシを癒して元気づけてくれる。

 貴子に出会えて良かったと心から思った。

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