甚の言うことは間違ってない。それでも、甚があたしの生活に密接していて第三者ではない。そう思うのに一歩離れられた気がした。
「幸せとか、感動とか……お前には簡単かもしれないが、俺には簡単ではない」
どうして、そんなこと言うの。
「か、簡単だよ……簡単!」
なんか嫌な予感がしたんだ。いつも通りじゃない晩ご飯。DVDも、嬉しすぎるオムライスも、甚の言葉も。
「嬉しいときに嬉しいって言うのなんて普通じゃん! なんでこんなに幸せに溢れてるのに!」
些細なことのくせにおっかながって声を荒げた。
「嬉しさも悲しさも、声にしたっていいじゃん……」
甚が離れていくような気がして、スプーンを置いた。お気楽に幸せを噛み締めながらオムライスを食べる気分にはならない。
「皆が皆、お前みたいにはなれない。そう生きれたらと思うが、真似しようとしてもできないものだ」
「あの、なんでさぁ! 突然そんなこと言うの? 今日変だよ。なんかあったなら言ってよ!」
「緊張してるんだ」
「……」
「言おうと決めてから、お前といた瞬間を色々と思い出した」
やっぱ、別れるとか言うのか。こんなに突然。幸せだったのに。
何がいけなかったと思い出せば、思い当たることは本当に笑えないけど星の数ほどあって。今更かもしれないけど冷や汗をかきながら記憶の中のあたしを恨んだ。
「どんなときも、お前は素直で、自分の力で日常を幸せに変えていった」
「そうでもないです……」
嘘ついたりもした。笑えなくて泣いて暮らしたときもあった。どんなときでも、甚は隣にいてくれたのに。
「それがどんなに素晴らしいことか、きっとお前は解ってるんだろうな」
「は?」
「結婚してくれないか?」
「…………………………う、ん?」
「そうやってお前は幸せだとか嬉しいだとか、言葉の弾丸を放てばいい。俺は撃たれて、感動して、死ぬまでそんな言葉を聞いていたいんだ」
「そんな、ちょっと待ってよ」
甚が嬉しいことを言ってくれたのに、喉が燃えるように熱くて。
「……う、うれしぃ……」
やっと出た声は震えていて、また泣き出してしまったあたしの目は視界を歪ませて。甚が手の平に差し出したものが何かも分からないままギュッと甚の手を握った。
「俺と、一生いてくれるのか」
「いる、いたい、ずっと」
「そんなに泣くな」
「だってっ、嬉しくて」
こんな時ほど嬉しい以外の言葉は出てこなくて。
むしろ甚の言葉の弾丸に撃ち抜かれたのはあたしの方で。
ご飯も途中なのに泣きながら抱き合って、愛とか、幸せっていうのは本当はこういう意味なんだと噛み締めた。
素晴らしき二人の日々にもっと彩りを。幸せを。新しい日常の中の平穏を。
握りあった指には、光る輪を。
もっと、幸せになれる弾丸であたしを撃ち抜いて。
そして、いつまでも
お互いを想っていければいい。