願う君に、2

 釣り合っていない自分が恥ずかしかった。

 忙しいからとか、洋服とか分かんないからと言い訳していた自分がいて。そんな自分がジョニーちゃんの隣にいるなんて、ジョニーちゃんが恥ずかしいよなぁ。

「はぁ……」

「あの、ごめんね。せっかく久々のお休みなのに、無理矢理付き合わせちゃって」

「え、なんで!? 全然そんなことないよ!」

「だって神林君、ため息ついてたから」

「ごめっ、違うんだよ! ジョニーちゃんが綺麗な格好してるから、俺ももっと良い服着てこれば良かったなぁー、なんて……」

 っていうか良い服なんて持ってないし。何やってんだろ、俺。

 誤解させちゃって。ジョニーちゃんにこんな顔させて。

「別にいいのに」

「へ?」

「神林君は神林君でしょ。いつもどおりの神林君でいいじゃない? わたしはいつもの神林君が好き」

「す、好き!?」

 それって

「わっ、えっと! 今日の神林君も、神林君らしくていいと思うんだ!」

「あ、なんだ……」

 好きって、まぁ、そうだよなぁ。友達だし。また調子に乗ってしまった……。

 ホント俺、何やってんだろ。

「あ、神林君。もう順番」

 ジョニーちゃんに袖を引っ張られ足元に落ちていた目線を上げれば、いつの間にか目の前には賽銭箱があった。

「あれ、もう?」

「神林君、ボーッとしてるから」

「ごめんごめん、ジョニーちゃん、おさい銭いくらにする?」

 俺がポケットから財布を取出しているとジョニーちゃんは準備をしていたようで、キラリと光るそれを掲げた。

「わたしは奮発して五百円!」

 そんなに叶えたいことがあるだ。どんなお願いなんだろ?

「俺はー……あ、小銭ちょうど二十円だ。じゃあ去年の分と今年の分ってことで」

 ジョニーちゃんの五百円に比べればかなり少ないけど、千円札を入れるわけにはいかないので、どうかこれでよろしくお願いします。

 二人で、取り出したそれを賽銭箱に放る。鐘を鳴らして二拍二礼。

 えーと、家内安全、無病息災。みんなが幸せでありますように。あ、今日は基地から連絡がありませんように! 海が平和でありますように!

 薄目を開けて隣を見ると、まぶたを下ろした綺麗な横顔が願いをかけていた。

 白い肌に睫毛の長い影を落として、唇と頬は赤く、細い指が鼻先で合わせられている。

 ……綺麗すぎる君に、言えなかった想いが思いがけず飛び出してしまいそうになる。

 今まで言おうともせず膨らませ弾けそうなほどのそれは、自分が思うよりも大きくて。些細なことで弾けて、叫んでしまいそうな気がした。

 言わない勇気を持っていたわけじゃない。ずっと友達がいいなんて思ってもいない。言う勇気がなかっただけで、それからはタイミングを外してばかりで。

 好きだ。好きなんだ。俺はジョニーちゃんが好きなんだ。

 自覚していくたびに、それは大きくなっていた。

「もっと一緒に、いれますように」

 次こそ、言えますように。

 そして横で目をつむり願う君に、どうか。どうか幸あれ。




「さーて、じゃあ出店見て回ろうか。それともおみくじ?」

 参拝の列を離れると人混みから少し解放され、ぐっと背伸びをした。

「神林君」

「んー?」

「来年は、恋人同士で初詣したいね」

 こっ、恋人同士って、俺と!? いやそんなまさか! お互い恋人と来られたらいいねってことだよね!

「そうだね……はぁ」

「どうしたの? またため息なんてついて」

「恋人なんて、いつになったらできんのかなー、俺」

 言わなきゃ始まらないって分かってるけど、どうすればいいんだ?

「……鈍感」

「へ?」

「なんでもないけど」

「そう?」

「本当はなんでもあるけど」

「なに?」

「今はなんか悔しいから言わない。もっと、ちゃんと言えるようになったら言うから。今のはだいぶストレートだけど」

「分かった、待ってる」

「はぁ……待ってないでよ」

 少し怒ったように、ジョニーちゃんは俺の手を取ってギュウと握った。

「怒ってるの?」

「怒ってないけど」

「良かった!」

 さりげなく手を握られたことが嬉しくて。なんだか心強くて、勇気になる。

「そ、そんな目ぇキラキラして可愛く笑っても許さないんだからねっ」

「えっ、やっぱり怒ってるの?」

「知らない!!」

 神様。俺は今日初めて、本気で恋愛というものを頑張ってみようと思います。



願う君に、
俺は相応しくなれるかな。


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