釣り合っていない自分が恥ずかしかった。
忙しいからとか、洋服とか分かんないからと言い訳していた自分がいて。そんな自分がジョニーちゃんの隣にいるなんて、ジョニーちゃんが恥ずかしいよなぁ。
「はぁ……」
「あの、ごめんね。せっかく久々のお休みなのに、無理矢理付き合わせちゃって」
「え、なんで!? 全然そんなことないよ!」
「だって神林君、ため息ついてたから」
「ごめっ、違うんだよ! ジョニーちゃんが綺麗な格好してるから、俺ももっと良い服着てこれば良かったなぁー、なんて……」
っていうか良い服なんて持ってないし。何やってんだろ、俺。
誤解させちゃって。ジョニーちゃんにこんな顔させて。
「別にいいのに」
「へ?」
「神林君は神林君でしょ。いつもどおりの神林君でいいじゃない? わたしはいつもの神林君が好き」
「す、好き!?」
それって
「わっ、えっと! 今日の神林君も、神林君らしくていいと思うんだ!」
「あ、なんだ……」
好きって、まぁ、そうだよなぁ。友達だし。また調子に乗ってしまった……。
ホント俺、何やってんだろ。
「あ、神林君。もう順番」
ジョニーちゃんに袖を引っ張られ足元に落ちていた目線を上げれば、いつの間にか目の前には賽銭箱があった。
「あれ、もう?」
「神林君、ボーッとしてるから」
「ごめんごめん、ジョニーちゃん、おさい銭いくらにする?」
俺がポケットから財布を取出しているとジョニーちゃんは準備をしていたようで、キラリと光るそれを掲げた。
「わたしは奮発して五百円!」
そんなに叶えたいことがあるだ。どんなお願いなんだろ?
「俺はー……あ、小銭ちょうど二十円だ。じゃあ去年の分と今年の分ってことで」
ジョニーちゃんの五百円に比べればかなり少ないけど、千円札を入れるわけにはいかないので、どうかこれでよろしくお願いします。
二人で、取り出したそれを賽銭箱に放る。鐘を鳴らして二拍二礼。
えーと、家内安全、無病息災。みんなが幸せでありますように。あ、今日は基地から連絡がありませんように! 海が平和でありますように!
薄目を開けて隣を見ると、まぶたを下ろした綺麗な横顔が願いをかけていた。
白い肌に睫毛の長い影を落として、唇と頬は赤く、細い指が鼻先で合わせられている。
……綺麗すぎる君に、言えなかった想いが思いがけず飛び出してしまいそうになる。
今まで言おうともせず膨らませ弾けそうなほどのそれは、自分が思うよりも大きくて。些細なことで弾けて、叫んでしまいそうな気がした。
言わない勇気を持っていたわけじゃない。ずっと友達がいいなんて思ってもいない。言う勇気がなかっただけで、それからはタイミングを外してばかりで。
好きだ。好きなんだ。俺はジョニーちゃんが好きなんだ。
自覚していくたびに、それは大きくなっていた。
「もっと一緒に、いれますように」
次こそ、言えますように。
そして横で目をつむり願う君に、どうか。どうか幸あれ。
「さーて、じゃあ出店見て回ろうか。それともおみくじ?」
参拝の列を離れると人混みから少し解放され、ぐっと背伸びをした。
「神林君」
「んー?」
「来年は、恋人同士で初詣したいね」
こっ、恋人同士って、俺と!? いやそんなまさか! お互い恋人と来られたらいいねってことだよね!
「そうだね……はぁ」
「どうしたの? またため息なんてついて」
「恋人なんて、いつになったらできんのかなー、俺」
言わなきゃ始まらないって分かってるけど、どうすればいいんだ?
「……鈍感」
「へ?」
「なんでもないけど」
「そう?」
「本当はなんでもあるけど」
「なに?」
「今はなんか悔しいから言わない。もっと、ちゃんと言えるようになったら言うから。今のはだいぶストレートだけど」
「分かった、待ってる」
「はぁ……待ってないでよ」
少し怒ったように、ジョニーちゃんは俺の手を取ってギュウと握った。
「怒ってるの?」
「怒ってないけど」
「良かった!」
さりげなく手を握られたことが嬉しくて。なんだか心強くて、勇気になる。
「そ、そんな目ぇキラキラして可愛く笑っても許さないんだからねっ」
「えっ、やっぱり怒ってるの?」
「知らない!!」
神様。俺は今日初めて、本気で恋愛というものを頑張ってみようと思います。
願う君に、
俺は相応しくなれるかな。