ある年のクリスマスが終わり、暮れが近付こうとしていたとき。突然、友達のジョニーちゃんからメールが来た。
正直言うと、前からジョニーちゃんが気になっていた。
なんか、ふとしたときに抱きしめたくなるっていうか……いや、しないけど! しないけど、したい。
「年が明けたら初詣でもどうですか、かぁ」
でも年末年始って約束できないんだよなぁ。すげー嬉しいんだけど。
三日までは一応待機ってことになってるけど去年は出動しっぱなしだったし、訓練隊まで出動したもんなー。今年はどうなるんだろ。
行きたいなぁ。ここんところジョニーちゃんと会ってないし。元気かな。
「……えーっと、是非!と言いたいところだけど、三が日は待機ってことになってるから、もしかしたら途中で仕事が入るかも。それでもよければ……と」
送信ボタンを押すと、ため息が出た。
会いたいなぁ。メールや電話なんかじゃなくて、会って話がしたい。ちょっとへこんだこととか、嬉しかったこととか。
……初詣ではこう願おう。もっと、君と一緒にいれますように。
願う君に、
一月二日。大晦日元日と慌ただしく仕事に追われていたけど、今日はどうか携帯が鳴りませんように。
そう思いながら昇った太陽の眩しさに目を細め、携帯で時間を確認して布団から抜け出した。
なんていうか、今朝はワクワクしていた。昨日は疲れていたから泥のように眠ってたけど、今日を楽しみにしていたせいか目覚めが良かった。
「あ、昨日の雪、積もってたんだ」
窓の外を見ながら着替えていると、「ピンポーン」とチャイムが鳴る。
来た! もう!?
「はいっ」
玄関を開けると
「明けましておめでとうございまーす」
着物の美人が立っていた。
「朝早くにごめんね。雪積もってたから、遅くなると思って早く出たら早く着きすぎちゃって」
「えぁ、あ、うん……」
いつもは可愛い感じなのに、今日は全然違う。着物のせいかな。いつもより赤い口紅とか、綺麗な黒い髪とか。
触りたくなる。
「神林君、どう? 振袖」
「はっ!……す、すごい、寒くないの?」
「もう、違うでしょ!」
「ご、ごめん」
本当は、綺麗だって言おうと思ったんだ。でもそれは着物が綺麗だって言うみたいで、そう思われるのも嫌で、気が付けば疑問を口にしていた。
「せっかく早起きして着て来たのに」
「いやっ、素敵だよ! なんて言うか……きれい、すごく」
瞬間に彼女の顔が赤くなり、自分がなんだか恥ずかしいことを言ったような気がして俯いた。
扉を開けるために伸ばしていた手がふと肩に触れて、反射でジョニーちゃんを見ると彼女も同じように俯いていて
「あ、ありがとう。嬉しい」
と、真っ赤な顔で言うから余計にこっちまで恥ずかしくなった。
あぁ、なんでこんなに可愛い。抱きしめたくなる。
誰も見てない。俺の部屋。手を引けば、俺の腕の中。
「いやいやいやいやっ」
「えっ!? 何!」
「ご、ごめん。俺もすぐ準備するから、上がってちょっと待ってて!」
「は、はい。お邪魔します」
何考えてるんだ! どうせジョニーちゃんには友達くらいにしか思われてないよ! いまだに「神林君」だし。それなのに……調子に乗りすぎてるな、俺。
ジョニーちゃんに勧められ電車に乗ってやって来たのは、恋愛成就の神様で有名な神社。
周りを見れば本当にカップルだらけで、そこらで抱き合ったりキスしたり……イチャイチャしまくってるんですけど。
ちょっと、神様に怒られない!?
「わぁ、やっぱりまだ二日だから人いっぱいだね」
「えっ、うん。えーと、はぐれないようにしないとね! 参拝の列ってこれかなぁ」
ジョニーちゃんは、周りが気にならないのかな。
なんかカップルだらけの中に俺らだけ友達同士って感じで、目のやり場に困るっていうか、居心地は良くない。
「う〜、はぐれない自信はないなぁ、わたし」
こ、こういうときよく漫画で「じゃあ手繋ぐ?」とか言って手を繋いじゃったり肩をさりげなく抱いたりしてるけど……。
別に周りの雰囲気に流されてそう思ってるわけじゃないけど!
「!!」
そう思っていると、お互いの手が触れた。
母ちゃん。俺は不純な男です。こんな形でもジョニーちゃんと触れて嬉しいです。そして神様。これくらいで浮かれてる俺を許してください。
「……」
華奢で小さな指が、俺の指と出会う。
出会って、少し触れて。自然と重なったそれを、壊さないように力を込めた。
「……冷たくてごめんね」
「いやっ俺だってそんな温かくないしっ! その、ごめんっ」
そう言う彼女の指は本当に冷たくて、温めてあげられるくらい俺の手が温かければよかったのにと思う。
「あれ?」
「なに?」
気が付けば、すれ違う人が俺達を見ている。
「あ、」
違う。ジョニーちゃんを見てるんだ。
そうだよなー、こんなに可愛いんだもんな。美人だし、綺麗だし。
それに比べて俺って……。
もうちょっと良い格好してくればよかった。
「どうしたの? 神林君」
「なんでもない」