「あっ……あぁ、あかんっ」
「んー? 何がですか?」
「そっそこっ」
「ぎゅうぎゅうされて、堪らなく気持ち良いんですね?」
「んんっ、あ、ホンマにっあかんて!」
「もうちょっと我慢してくれたら、もっと気持ちしてあげます」
「でも、んっ……昼休み、終わってまう……」
「大丈夫。すぐ済みますよ」
「あ、そこっ、あかんあかん!」
「ここですか? じゃあもっとぐりぐりしちゃおうかなー」
「あかんてっ」
「嶋本さん、ここされるの本当に好きですね」
「も、我慢でけへん、ッ!」
「嶋本さんがこんなに気持ち良くなってくれて、とっても嬉しいです。もう、我慢しなくていいですよ」
「ヤバい、めっちゃ気持ちいッ!! あぁっ、あー!!」
SEXY×VOICE
ガチャと、音を立てて開いた扉に、私達はゆっくりと顔を向けた。現れたのは、押尾さん。
「……何やってんだ。お前ら」
あるお昼休みのこと。二人っきりだった仮眠室のソファで、私は嶋本さんに馬乗りになっていた。
目上の人に馬乗りになるなんてよくある光景ではないけれど、間違いなく同意の上だ。
「何って……見て分かりませんか?」
「セ○クス」
「背中に馬乗りって、どんな体位っすか!」
「……ジョニーが攻めで嶋本が受けとか? ジョニー×嶋本みたいな」
「私はどちらかというとこっち→凹の方なので構造上無理です……」
「真面目かお前は。マッサージしてもろうてたんです。こいつめっちゃ上手くて」
「性感マッサージか!」
「ちゃーいーまーす!! 整体みたいなもんです!」
「なぁんだよー。こんな所から変な声が聞こえたから、エロいことかと思ってちょっと期待したじゃねぇか」
「期待するようなことは何もないんですけどね」
「しかし、どうせならジョニーの喘ぎ声の方が聞きたかったなぁ。おっちゃんとしては」
押尾さんは「つまんねーなぁ」と呟きながら、何事もなかったかのように扉を閉めて行ってしまった。
「……なんやったんや」
「なんでしょうね」
そして私は嶋本さんの背中から一度退けると、今度は壁に手を付いて背中に立ち上がった。
グニグニと、嶋本さんの背中を踏んでいく。
「うおー……お前の重さちょうどええなぁ。どんだけ軽いねん。子供かお前は」
「ちゃんと身体的な規定はクリアしてますよ。最近少し痩せた気はしますが」
「嫌みかコラ。俺だって規定クリアしとるわ」
「い、嫌みだなんてそんな! まさか!」
私は、嶋本さんの背中が好きだ。身長の差は10センチくらいだろうけど嶋本さんは大きくて、ゴツゴツしてて男っぽくて。
いつかその腕の中に入って、ぎゅってされたい……なんて、思ったりする。
「じゃあ最後に手足、やっときますね」
「ん〜あ゙ー、しっかし、お前ホンマにマッサージ上手すぎ。いっそここ辞めて店開いたらええねん。俺絶対通うわー」
「や、辞めません!」
「いや、絶対そっちの方儲かるわ。引っ越しても年取っても、一生食っていけるやん」
「じ、事務の私が出来ることなんて、ここじゃああんまりないし役に立つこともそんなにないけど、す……好きだから辞めませんっ」
「仕事熱心やなぁ」
……仕事じゃない。嶋本さんが、好きなの。言えないけど、こうして嶋本さんといられるのが本当は嬉しいんです。
なんか不純で、いいのかなって思うけどやっぱり好きだから触れていたい。それに嶋本さんの役に立てるのって、これくらいだし。
「はい。おしまいです」
終わりの合図としてポンと背中を叩くと、起き上がった嶋本さんはグーッと背を伸ばした。
「あー、めっちゃ体軽い。いつもありがとさん」
「いいえ、またいつでもどうぞ」
その笑顔を見ると、もっとお役に立ちたいと思えるんです。えへへ、嬉しいな!
「……まぁ、じゃあ今度、俺がやったるから。マッサージ。お前みたいに上手くないけど」
「え?」
「あっ、違うで! そういう、体触るーとか下心とかやなくてっ。お前いっつもやってばっかやから、疲れてるんかなーと思って……やな」
私は変なんでしょうか。むしろ、下心があったらいいのに、とか。嶋本さんに触れられたいとえっちなことを考えてしまうのは。
なんだかバツが悪いような嶋本さんは、顔を真っ赤にして、私をきゅんとさせるのです。
「やっぱ飯の方がいいか、礼は」
「い、いえ! 是非マッサージをお願いします」
「お、おぉ」
「私も事務仕事なんで肩凝っちゃうので助かります。あ、今度は誤解されないように、誰にも邪魔されない所がいいですね〜」
「だっ、誰にも邪魔されない所って……うち、とかか?」
目を反らし手の平で口元を隠す嶋本さんの顔はさらに真っ赤で、その表情を見て分かってしまった。
別に何の意図があったわけじゃないんだけど、さっきの私の言い方だと「密室で、二人っきりで」みたいな。
うわわわわぁああぁ! 恥ずかしいっ。そういう意味じゃないのに! 嶋本さんの赤面がすっかりうつってしまった。
「わ、分かった。ほな、また今度」
「あ……っ」
そう言って嶋本さんは、返事も聞かずに行ってしまった。