もしもトッキューが新撰組だったら6

 粗相のないよう、粗相のないよう。何て言ったって相手は新撰組でも「鬼」と呼ばれる人。更にその人の上に立つ局長なんだもの、もっと恐ろしいに決まっている。

土方「おう、待たせたな」

 少し、緊張で身を硬くする。二人が私の前へ来て腰を下ろすと、先程私が言ったように山南さんが私を紹介してくれた。

 私が白牡丹の娘であること、父の代わりに来たこと、一人で来たこと。そこでも山南さんは気遣ってくれた。

山南「彼女も疲れているでしょうから、直しがあれば早く済ませてしまいましょう」

土方「あぁ、せやな。嬢ちゃん、そろそろ顔上げぇ」

ジョニー「は、はいっ!」

 「俺ら別に殿様やないんやし」と声をかけられ、恐る恐る顔を上げた。

ジョニー「……?」

 目の前には、男前で威厳のある男性と、小柄な男性。

 ……小柄な人は小姓さんってわけではなくて……どちらかが局長さんで、どちらかが副長さんよね? 

 風格から言うと、威厳のある男性が局長さんなのだろうけど……この小柄な人が「鬼の副長」? まさか。やっぱりそっちの人が副長さんで……でもそしたら、この人が局長さん? いやいや、まさか。

近藤「どうかしたか?」

ジョニー「い、いえっ! 波乗りジョニーと申します。よろしくお願いいたします!」

 慌ててまた頭を下げると、小柄な男性がニッと笑った。

土方「俺が新撰組副長の土方や。そんな怯えんでも、取って食ったりせんから安心しぃ」

┏  新撰組副長  ┓
┗土方歳三(嶋本進次)┛

 ……。えぇ!?

 こっ、この、この小柄な人が噂の土方さん!? あの、拷問で人を殺しちゃったっていう……。思った感じと全く違い、動揺を隠せない。

 ということは、こっちの人が……

近藤「ご苦労だったな。さっそく品を見せてもらう」

┏ 新撰組局長 ┓
┗近藤勇(真田甚)┛

 新撰組局長の、近藤勇さん。男前で威厳があって、男らしい方。想像通りというか、思ったよりも男前で驚く。

 でも本当に驚いたのは、副長である土方さんの方だ。なんていうか随分と小柄で……本当に「鬼の副長」なのかしら?

井上「二人とも遅かったんで、総司と一は先に合わせ終わってる。このままで問題ないそうだ」

土方「そうですか。ほな、俺も袖を通してみよかな」

 広げた藍色の着物はよくある色だけど、土方さんにとても似合っているようだった。

 だけど……

土方「ん? 大きないか、これ」

 そう。その着物は彼の体には大きすぎたのだ。まさか、寸法を間違えたのかしら。

 ハラハラしていると近藤さんが、広げた着物の中から同じ藍色のものを取って土方さんに差し出した。

近藤「トシ、それは俺のだ」

土方「あ、すんません。これ、局長のでしたか」

 少し照れたように羽織ったものを脱ぐと、近藤さんの差し出したものとそれを交換した。

 そういえば一枚だけ他のよりも小さな物があったっけ。小姓さんのかと思っていたけど、違うのね……。

土方「ん、ええな!」

近藤「こちらもちょうど良い」

ジョニー「それは良かったです」

 二人が着物と羽織、袴を合わせ終わるとこちらも具合は良いよううで、品を渡し終えて受け取りの名前と代金を頂いた。

 大切な代金を懐へしまうと、包む物がなくなった風呂敷を畳んで膝の上へ置く。

 ふと、側に置いた、忘れていた物を思い出した。

ジョニー「……あの、一つだけよろしいですか?」

近藤「なんだ?」

ジョニー「どなたか、簪を注文された方はいらっしゃいませんか?」

 箱を開けて簪を二人に差し出しながら、今まで新撰組の人達との話を説明する。

 新撰組の人達は皆、頼んだ覚えがないという。でも私は父から「注文された品だ」と聞いているのだ。

原田「やっぱり誰も頼んでないってー」

 原田さんは飽きた子供のように、膝を折り曲げしゃがんでいた。今にも外へ遊びに行ってしまいそう。

 そんな原田さんをなだめるように見遣る山崎さんも、首を傾げている。

山崎「俺はそもそも白牡丹へ同行していないしな」

島田「白牡丹へ行ったのは近藤局長と副長、総司と一でしたよね」

土方「せや。でも……俺とも違うしなぁ」

 島田さんの言葉に土方さんは眉をしかめ、腕を組んだ。

山南「そうですか。私にも心当たりはありませんし……失礼ですが、やはり手違いでは?」

 誰も心当たりはない。注文を聞いたと言う父もこの場にはいない。いよいよもって、こちらの間違いだという空気だ。

 たしかに私は父から説明をされて預かってきた。そのはずだったのに。

 どうしたら良いのか分からず俯いていると、私の手から簪の入った箱を取られ、道場に凛とした低い声が響いた。

近藤「これは俺が頼んだものだ」

 一瞬の静寂のあと、ザワザワと声が上がる。

島田「局長が!?」

原田「一番女っ気のない局長が!」

永倉「原田さん!」

斎藤「さすが近藤局長たい。こんなよか簪を頼んどるなんて、かなりのハイセンスばい」

藤堂「斎藤さん……。さっきその簪について結構なこと言ってた気がするんすけど」

井上「まさか局長のだとはなぁ」

沖田「あー! 近藤さんが店主とコソコソ話していたのは、これのことだったんですね!」

山南「……近藤局長、土方副長」

ジョニー「!」

 ざわつく道場に一声、柔らかさを帯びながらも通る声。

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