もしもトッキューが新撰組だったら5

 斎藤さんの言葉に、永倉さんは目を鋭くする。

 しかし集中しているのか、こちらの声は全く届いていないようで沖田さんからの返事はない。島田さんが更に大きな声で呼ぶ。

島田「おーい、総司!」

 それでも返事はなく、二度三度と呼んでやっと聞こえたのか、彼は手を止めた。

沖田「えっ、なに?」

┏  一番隊組長  ┓
┗沖田総司(神林兵悟)┛

 振り下ろした手をそのままに振り向いた彼は、少年のような目をしていた。

 よほど集中していたのだろう。皆が顔を揃えていること、私がいることに驚いた様子で、瞬きを繰り返した。

 私が会釈をすると、彼も会釈を返してくれる。

永倉「おいおい、総司。何回も呼んだんじゃぞー。この間新調した着物が届いとるって!」

 永倉さんの言葉に「あぁ、ごめんごめん!」と、刀を鞘に納めるとこちらへやってきた。

 この人は、私でも知っている有名人。新撰組で一番強いんじゃないかと町で噂される、沖田総司さん。初めて見たけど、とても剣の腕が立つようには見えない。

 何て言うか……想像していたより普通だし、そんな悪い人にも思えない。

沖田「あ、すごいっ、本当に俺用に作られてる!」

島田「当たり前だろ」

沖田「感動だなー」

 手に取った月白の着物を広げて袖を通す沖田さんは目をキラキラさせ、まるで子供のようだ。嬉しそうに顔を緩めている。

沖田「だって俺、自分用にお店で仕立ててもらったのって初めてで……」

ジョニー「もし具合が悪ければおっしゃってください。すぐ直します」

井上「一はどうだ」

斎藤「悪くないですね。寸法もちょうどよかです」

 斎藤さんも藤色の着物に袖を通し、腕を伸ばしたり組んだり、回って見たり。少しだけ柔らかくなった彼の表情に、安堵する。

井上「そうか」

 井上さんは満足そうに笑った。

 ……彼らはまるで正反対だ。私はさっきまでそう思っていたけど、彼らはどこか似ているように思えた。

 沖田さんはずっとニコニコしているけれど、斎藤さんはずっと不機嫌そう。だけど着物に袖を通したときの、はしゃぐ子供のような照れ臭い顔は同じで。

 時たま混ざり合う二人の視線は、不機嫌だったり馬鹿にしてみたりムッとしてみたり、本当にまるで子供のようだ。

 人斬り集団と噂される彼らの人間らしく可愛い一面を見た私は、なんとなくホッとしていた。

ジョニー「それでは、寸法も問題ないようですのでお受け取り下さい」

 全て合わせ終わると着物を二枚ずつと袴を二枚ずつ、それぞれに手渡した。

沖田「ありがとう」

井上「そうだ、総司。これに覚えはないか?」

 井上さんが風呂敷の上から箱を取り手渡すと、沖田さんは中を覗き、すぐに箱を閉じた。

沖田「簪ですね。分かりません。誰かの贈り物ですか?」

 大きな目を、いっそう丸くしている。

井上「総司も知らないか」

原田「あ」

 ふと、他人の着物に興味はないといった感じで外を向いていた原田さんが、大きな口を開けた。

 待っていたと言わんばかりに立ち上がる。

原田「山南さんと山崎君だ。お帰りなさーい」

沖田「あっ、お帰りなさい!」

 手を振る原田さんに幼さを感じ、なんだか微笑ましくなる。代わる代わるに廊下に顔を出した藤堂さんや永倉さん、島田さんにも同じこと。

山崎「ただいま帰りました」

 山崎さんが廊下に姿を現すと、千草色の落ち着いた着物を来た、大柄の人があとを追うように道場に入ってくる。

山南「どうしたんです? 皆さんお揃いで」

┏  新撰組総長   ┓
┗山南敬助(高嶺嘉之)┛

 なんて優しい空気を持つ人なんだろう。皆が揃って顔を出し、出迎える理由が何となく分かる。きっと、とても慕われている方なのだろう。

 体は大きくてムッとしていたら恐そうに見えるけど、彼の目は優しく綺麗だ。

藤堂「新調していた着物が届いたんで、沖田さんと斎藤さんが出来を確認していたんです」

山南「そちらは?」

ジョニー「初めまして。呉服・白牡丹から波乗り祥太朗の使いでやって参りました、娘のジョニーと申します」

 その場にいた皆さんにも改めて頭を下げ挨拶をすると、彼は私の前に正座をして丁寧に返してくれた。

山南「わざわざご苦労様でした。私、山南と申します。近藤局長や土方副長には?」

ジョニー「いえ、まだお会いできておりません」

山南「そうですか。山崎君、すみませんが近藤局長と土方副長をここへ」

山崎「はい」

 短く返事をすると、山崎さんはまたどこかへ姿を消してしまった。忙しい人なのね……。

山南「ここへはお一人で?」

ジョニー「はい。父は今仕入れに回っておりまして、兄も別件で手が離せず……不足かとも思いますが私が代わりに」

山南「そうでしたか。こちらへ知らせをいただければ使いを出したんですが……。重かったでしょう。せめて次は荷車を使ってくださいね」

 なんて丁寧で優しい微笑みなんだろう。そしてこんなにも心遣いをしていただけるなんて。

 こんな人が表に立ったら、新撰組の悪い噂なんてすぐに消えてしまうのに。

 そんなことを思っていると、道場の奥から山崎さんの後に二人分の影が伸びた。山崎さんが連れてきたってことは、この方達が新撰組の局長さんと副長さん……。

ジョニー「あっ」

 慌てて頭を下げる。

 5/9 

[main]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -