もしもトッキューが新撰組だったら2

 春うらら。京では桜が満開に咲き誇り、市中は平和で穏やかだ。こんな日は、川岸の立派な桜並木で花見でもしたいところ。

 しかし私、波乗りジョニーは呉服屋・白牡丹の一人娘。昼過ぎから大きな風呂敷を背負いお得意様である新撰組の頓所へ、出来上がった着物や袴や羽織を父の代わりに届けに来たのだ。

 お得意様と言っても私が店を手伝いだしたのは最近で、私はここへ来るのも初めてだしお会いするのも初めてだ。

 今回だけ特別、仕入れに行ったと父や、別件で手が離せない兄様の代わりをする。

 ……新撰組は京の町を守ってくれているけど、正直あまり良い噂は聞かない。恐い顔とか、人斬り集団だとか、なんとか。

ジョニー「はぁ……」

 初めて来た頓所の前で、噂話で出来上がった想像が駆け巡り、中に入れず尻込みをする。こんなことなら、無理を言ってでも兄様について来てもらえば良かった。

 入って二度と出てこられなかったらどうしよう。まさか、京の町を守っているんだもの、大変な粗相でもしなければ大丈夫よね、きっと。でも人斬り集団って噂があるし……。

 不安を拭えないまま顔を上げると

山崎「何か用か」

 目の前には黒い着物を着た無表情の男性が、音もなく立っていた。

ジョニー「わっ!」

 私は踏み込んだ勢いが余ってその固い胸に鼻っ柱をぶつけ、反動と荷物の重みで後ろへよろける。

山崎「すまない。驚かせたか」

┏諸士取調役/監察方 ┓
┗山崎烝(佐々木小鉄)┛

 その人は無愛想なままだったがえらく優しく、私の体を支えてくれた。

 家族以外の男性に慣れていない私は、ただでさえ緊張しているのに、心臓が壊れそうなくらい早鐘を打っている。

ジョニー「す、すみません!」

 こ、これはきっと粗相の内に入らないわよね!? だだ、大丈夫よね!?

 彼の手からパッと離れると、彼は私の荷物を見つめた。大きな風呂敷包には、うちの家紋が入っている。

山崎「その紋は“白牡丹”の」

ジョニー「そ、そうです! あの、呉服・白牡丹から参りました、波乗りジョニーです。父、波乗り祥太朗の代わりに御注文の品をお届けに上がりました」

山崎「華奢な女子にこんな大荷物を持たせるとは……」

 小さく溜め息をつくと、彼は門の中へ「藤堂、藤堂!」と誰かを呼び付けた。「はーい」と、門のすぐ側から声が聞こえる。

藤堂「どうしたんですか? 山崎さん」

┏  八番隊組長  ┓
┗藤堂平助(武山直美)┛

 現れたのは、私と同じくらいの年だろうかという青年。目の前の男性を「山崎さん」と呼んだ彼は、名を藤堂さんと言うらしい。

山崎「白牡丹の娘さんが、新調した着物を一人で届けに来てくれた」

藤堂「一人でですか! 女の子にこんな大荷物……こちらに連絡をくれれば取りに行ったのに」

山崎「手伝ってやってくれ。俺は副長から預かった所用で出かけるところだ」

藤堂「あ、はい。分かりました」

 そう言うと山崎さんは通りを足早に抜けて、町へと姿を消した。

 黒い着物といい静かな動作といい、まるで忍者のような人ね。本当に新撰組の人かしら。

藤堂「自分が持ちます」

ジョニー「あっ、申し訳ないです……」

山崎「いいんすよ!」

 藤堂さんはニコッと笑って私の背負っていた風呂敷を抱えると、頓所の中へと案内してくれた。

 山崎さんは無表情で怖そうだったけど重い荷物を心配してくれたし、藤堂さんは優しく荷物を持ってくれた。

 もしかして……噂と違って、本当は新撰組って優しい人達なのかしら?

 それでも不安は残っていて、私は緊張しながら藤堂さんの後について頓所へ上がり、奥へ続く廊下を歩く。

 途中、なんとも珍しい、前髪が緑色をした男性と擦れ違った。

藤堂「あ、斎藤さん」

斎藤「なんね」

┏ 三番隊組長 ┓
┗斎藤一(石井盤)┛

 その人はひどく訛っていて、藤堂さんの声に不機嫌そうな顔で振り向いた。珍しい見た目と突き放すような物言いが、ちょっと怖い。

藤堂「局長、道場にいました? 俺さっきまで庭掃除してて……」

 その問い掛けに、いっそう眉を寄せる。

斎藤「知らん。どーせ総司君と一緒におるたい」

藤堂「そ、そうですか。すみません」

斎藤「ふんっ」

 鼻を鳴らし去っていく斎藤さんを見届けた後、藤堂さんが小さな声で呟いた。

藤堂「今の、斎藤さんって言うんですけど居合の達人で、隊内でも一、二を争う剣の強さなんですよ」

ジョニー「そうなんですか。確かに、お強そうでしたね」

 と言うより、本当は怖かったのだけど。

藤堂「もう一人、剣の腕が立つ沖田さんていう人がいるんですけど、二人はなんだか馬が合わないみたいで」

 やっぱり一、二を争う人達は好敵手を見付けて、切磋琢磨をしながら強くなるのかしら。

藤堂「どうも斎藤さん、沖田さんの方が局長に気に入られてると思ってるみたいで、いつもああやって沖田さんのことになると不機嫌になるんです」

 藤堂さんは本当に「参っている」といった表情で溜め息をついた。“いつも”そのいざこざに巻き込まれている感じだ。

藤堂「才もあるし、遊びに誘ってくれるし、悪い人じゃないんですけどね。俺は苦手っす」

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