「佐久間!」
「円堂」

待ち合わせ場所に着くと、既に佐久間は其処に居た。先週の制服姿とは違い、今日は私服だ。顔が良ければセンスも良いらしく、道行く人の視線は男女問わず佐久間に釘付け。そんな彼の隣に並ぶと、恥ずかしい様な誇らしい様な複雑な気分になる。俺みたいな平凡顔が隣に並んで良いのかという恥ずかしさと、こんな綺麗な奴が俺の友達なんだぞという誇らしさだ。

「ごめんな、待たせたか?」
「ああ、滅茶苦茶待った。寂しい奴と思われて逆ナンされるし男からまで声かけられるし、最悪だったぜ」
「え゙……ご、ごめん…」
「ははっ!…冗談だ、冗談。大して待ってないからそんな情けない顔するなよ」
「なっ、性格悪いぞ佐久間!」

噴き出す佐久間をじとりと睨めば、慌てて早く行こうぜと急かされる。しかし行き先を思えば俄然気分が上昇する辺り、俺も単純だ。佐久間と出会った日から一週間。メールのやり取りを続けていた俺達は、ある話で盛り上がり今日の約束を交わした。俺達の行き先は最近話題のアトラクションが出来た遊園地…なんて洒落たものでは全く無くて、帝国の学区にある大きなスポーツショップ。そこに、俺と佐久間が共通して好きなメーカーの新作スパイクが入荷するらしい。数量限定のモデルで、当然学生の小遣い程度じゃとても買えない値段だ。それでも一目見てみたいと二人で話していた結果、いつの間にか今日の約束に至っていたという具合だ。ああ、魅惑の新作スパイク。楽しみすぎてスキップしたい気分。

「っ早く見てえなあ…!試着も駄目…、だよな。うー、どんな履き心地で蹴り心地なんだろー」
「そういや自分でプレイするのも好きって言ってたな。何で女子サッカーにしなかったんだ?」
「えー…と、まあ、色々あって…」
「へえ」

俺は本当に迂闊だ。一度ならず二度までも。…今、完璧に男の気分で話してた。そう、忘れてはならない。今の俺は佐久間や他の人からすれば、可愛いワンピースを着た女の子だ。因みに、淡い色のワンピースはちょっと値段の張ったお気に入りだったりする。いや別に佐久間と出掛けるから気合いを入れたとかそんなんじゃ全然無いけど。全然、無い、けど。とにかく佐久間が鈍感な奴で助かった。あれ、これ先週も似た様なこと考えてた気が…。

「円堂、ぼさっとしてるとはぐれるぜ」
「うわっ」

…でも、こいつの態度も問題だと思うんだよな…。佐久間に捕まれた首根っこが鈍く痛む。そう、佐久間が女の子にする様な態度で接してくれれば、俺だって自分が女装してることを忘れない。でも、佐久間は男友達を相手にしている様にしか振る舞わないから、俺もつい男の気分で話してしまう。そりゃあこっちの方が気は楽だけど、でもやっぱり複雑だ。折角可愛い服着たのに、それに対するコメントも無し…、あれ?いや、いやいやいや、うん。今のは違うよ。違うんだよ。

「いや全然そんなんじゃないから。何かの間違いだから。違うんだって」
「…円堂、気持ち悪いぞ」
「…さ…っ、佐久間の大馬鹿スカポンタン鈍感美形野郎ーっ!!」
「えっそれ貶してる?誉めてる?」

違うんだよ。誤解なんだよ。女の子の格好してるのに全然意識されてないのが寂しいだなんて、一瞬だって考えてない。何かの間違いだ。考えてない。…考えてないったら!



06.
















円堂さんテンパるの巻。駆け足進行で頑張りたい。



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