他人に言えない癖。誰でも一つくらいはある筈だ。勿論俺も例外じゃない。

大きなプリントの施された黒いワンショルTシャツ、小花柄が可愛いレースのティアードスカート、薄手のトレンカにリボンのついた赤いパンプス。鞄は斜めがけの丸いポシェット。後ろ髪を伸ばす為のエクステと、小さなアクセサリーたちも忘れない。仕上げの化粧は気持ちだけ。──そうして出来上がった姿は、俺だけど俺じゃない。いま目の前の鏡に映っているのは、"女の子の円堂守"。

そう、俺には、──女装癖がある。







「…、」

いい加減に止めないと。日曜日だけあり賑わう市民公園を、噴水の縁に腰掛けてぼんやりと眺める。考えるのは自分の困った癖のこと。…こんな癖、可笑しいって解っているのに止められない。だって、今だけは。"女の子の円堂守"でいる間だけは、辛いことなんか何も無いから。やる気の無い仲間や、集まらない部員や、ちらつかされる廃部の文字に怯えなくて良いから。成長期が来たら止めよう。いや、背は高くても誤魔化せる。声変わりした時こそ。ううん、喋らなければ大丈夫。あと少し、もうちょっと、高校に入学するまでは。そんな言い訳を繰り返して、ズルズルと自分を甘やかし続けている。一時の辛さから逃げたいから。どんな形にしろ、いつか痛い目を見るなんて解りきってるというのに。嫌いだ、弱い自分。大きく溜息を吐いて、今日はもう帰ろうと立ち上がる。歩き出そうと右足を踏み出した、その時。

「かーのじょ、今ヒマ?」
「暇だよねぇ、さっきからずっと一人でいたんだし」
「あ、もしかして彼氏に約束すっぽかされたの?はは、カワイソー」
「…うわ」

ベッタベタな台詞しか吐かないナンパ男集団に絡まれた。三人。人数までベタ。一昔前の少女漫画でよくあるだろうパターンだ。だが、残念ながら俺は─こんな格好をしていても─女の子じゃないし、此処で都合良く助けに入ってくれる様な相手もいない。助けを求めてもいない。こういうのは相手をしないに限る。

「…」
「そんなさ、無視しなくたって良いじゃん?ちょっとくらい遊ぼーよ」
「そうそう、お茶だけでもさぁ」
「…っ!」

しつこい。とにかくしつこい。台詞はどれもこれも使い古されたボロ雑巾レベルのくせして、しつこさだけは人並み外れている。怒鳴り付けたい衝動を抑えて、歩くスピードを早めた。

「…だからさー、ちょっと待とうよ」
「!はな…ッ」

せ。言うよりも早く。握られた腕を振り払うよりも早く。目の前の男は倒れ伏していた。

「お前ら、見ててウザいんだよ」

…え。またベタな展開ですか。



01.











色々すみません…。円堂さんの服装は趣味です。実際にやるとセンスの無さが際立ちます。あ、季節感無視ですが多分夏〜秋くらい。あとベタなナンパ男書くの楽しかったです(笑)



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