「なあ緑川ー、これは?」
「そ、れは」

円堂が近い。とにかく近い。頻りに鼻先を擽る円堂の髪から薫る匂いはやけに甘くて、また心臓が騒がしくなる。合宿所の大浴場を皆で使っているのだから俺と同じ匂いの筈なのに。…円堂と同じ匂い。……なんかやらし…って違う!それなら全員一緒だし!それ以前に、どうしてこうなった!

そう、全ては円堂が唐突に俺の部屋を訪ねてきたことに起因する。小一時間前、輝く笑顔で俺を訪ねた円堂の口から発されたのは、「学校の宿題がわからないから教えてくれ」だった。FFI日本代表と言えど中学生は中学生、本分は勉強だ。とにかく、国語の四字熟語のプリントが解らないから教えてほしいと、そういうことらしかった。俺、年下なのに。しかも得意なのは諺だし。そんな反論は飲み込んだ。何にせよ、円堂に頼られて嬉しかったのは事実だったから。…が、今は安請け合いしてしまったことを後悔している。

「それじゃ、この…えーと…これなんて読むんだ…?」
「…"あいしゅうぜんちゃく"。意味は愛にとらわれるってこと」
「…と、ら、わ、れ、る…ことっと。あ、こっちも解んない」
「"ひよくれんり"。男女の…じょ、情愛が深いことの例えだよ」

ああああ吃った!格好悪い!でも仕方ないじゃないか。さっきから円堂が聞いてくる単語と言えば、狙ったように愛とか恋とか男女のなんちゃらとか、中学生男子が言うにはちょっと恥ずかしいのばっかりなんだから!しかも、それを想い人に面と向かって説明する恥ずかしさと言ったら。お分かり頂けるだろうか。いや分かってくれ。円堂頼むから色々と察してください。俺が今凄くむらむらしてることとかね。早く逃げた方が身のためだよ。

「…おーい緑川、聞いてるか?」

俺が自分の煩悩と戦っているにも関わらず、円堂は無邪気に朝雲暮雨だの落花流水だのの意味を問うてくる。駄目だ全く意識されてない。いや、男同士だし相手は鈍感な円堂だし、意識しろって方が無茶かも知れないけど。あーもう、せめて風呂に入る前に来て欲しかった。風呂上がりは拙いよ、色々な意味で。

「みーどーりーかーわー。…あんまり無視すんなら悪戯しちまうぞ?」

悪戯でもなんでも好きにしてくれ。この際、俺の邪な思考を滅してくれるならなんだって構わないから。このままじゃ据え膳食わぬは男の恥とか何とか言って円堂に手を出しかねない。「はい悪戯ー、ちゅっ」そうだよ俺はちゅっとしてやりたいんだよ円堂のこの柔らかい唇にさあ……、…ちゅ?

「…な、はっ…えぇ!?」
「お、やっと反応したな」
「そ、そうじゃなくて、今!」
「だって、折角俺が勇気を出して誘惑してるのに、緑川ときたら全然乗ってくれないから」

強行手段に出てみた。朗らかに笑う円堂。可愛い、可愛いんだけど!そんなこと言ってられないっていうか!つまりだ。この状況と円堂の言葉を総合して考えてみる。…要するに、俺に都合の良すぎる展開で良いってこと?

「緑川、大好きだぜ!」
「…〜っ、」

なんてことだ。円堂守は、思っていたよりもずっと手強い相手だった。その悪戯な笑みからは、今までの行動全てが確信犯だったらしいことが伺える。…俺の小一時間の葛藤も何もかも無駄だったなんて。ああ、でも、やっぱり嬉しすぎてどうにかなりそう。

「さて、緑川クン?」



今の気持ちを四文字熟語でどうぞ
( 「…海誓山盟」
「…意味は?」
「自分で調べなよ」 )











海誓山盟:非常に固い誓い。男女間の愛情が永久に変わらないと誓うことにも用いられる。
小悪魔な円堂さんは…好きですか…?七詩は 大 好 き で す と も 。緑円の場合、くっつく前は円堂さんの方が積極的だと嬉しい。あ、中学生がやる四字熟語じゃねーよっていうのも有りますが、細かいことは良いのです。


title by NIL



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