※映画後捏造話





馬鹿みたいな幻想を抱いていた。
愚かで浅はかな、物を知らない子供の見る様な、到底叶う筈もない幻想を。抱かずにいられなかった。この男と対峙して、言葉を交わしてしまえば。それがこの男の、円堂守の、強さであり魂でありやがて忌避される絶対的な力だった。そうだ、この男に近付いてはいけない。変えられてしまう。夢を見てしまう。危険だ。解っている、…解っていた、筈だったのに。

「ミストレ?」
「俺は、」

変わってしまったのだろうか。変わっていないつもりだったというのに。円堂守に、変えられてしまった、のか。どちらも耐え難かった。現状を肯定するのも今までの時間を否定するのも耐え難い。いや、変化も不変も現状を好転させる要素にはならない。下らない考えだ。かちり、俺からしてみれば古めかしい、円堂守の部屋の時計の針が進む。嗚呼、もうすぐだ。もうすぐ俺は死ぬ。今この瞬間の、円堂守を抱き締めながら無意味な仮定に縋る俺は、跡形も無く消える。

「お前のせいだよ」
「…うん、ごめんな」
「お前が夢なんか見せるから」
「うん、うん、」
「おまえが、」

まるで。世界が美しいんじゃないかって。優しいんじゃないかって。そんな幻を俺に見せたりするから。「円堂守の悪魔の呪文により著しい悪影響を受けたチーム・オーガ」は、円堂守に関する一切の記憶を抹消される。この声も温もりも笑顔も何もかも全て亡くして、また以前の様にただ機械的な日常を過ごすのだ。それを嫌だと、苦しいと、そう思ってしまうのが、円堂守に変えられた証だと理解していても耐え難かった。このもどかしさの名前は知らない。どうせすぐに消える。それなら、今だけ。何も考えずに、腕の中の温もりを感じたいと思った。

「ミストレ、もう、会えないのか」
「…」
「ふうん、そっか…」

寂しいなあ。呟かれた言葉が、また。世界の輪郭を柔らかくする。何か言おうとして、でも言うべき何かも見付からなくて、口を噤んだ。かわりに、抱き締める力を強く、その体が軋むくらい、強くした。ミストレ。円堂守は一度俺を呼んだきり、その後は何も言わなかった。



さよならさえ上手に出来なくて











ミストレの口調が…わからない。ぐだぐだで中途半端に薄暗い話ですが、ミストレと円堂さんの関係はこのくらいあっさり両想いなのが好みです。イチャイチャバカップルもそれはそれで大好きですけどね!

title by 亡霊



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