円堂守という人が嫌いだ。大嫌いだ。温かい手も、眩しい笑顔も、体躯は小柄なのに大きな背も、偽りの無い真っ直ぐな言葉も、幼さの残る明るい声も、…その声が紡ぐあの人の名前も、全部。
「きらい、です」 「嫌いかぁ」
腹立たしい。真っ正面から嫌いだと言ってやったのに、何にも気にしてない様な反応。少しくらい落ち込んだ素振りでも見せれば。そうしたら、僕だって……、「僕だって」?何だって言うんだ。何にもない、有るわけがない。だって僕は、この人が嫌いなんだから。傷付いてくれたら嬉しいとか、優しくしたいとか、もっと話したいとか、傍にいたいとか。そんなの、
「俺はさ、お前とこうして話したり出来て嬉しいぜ!」 「…は?」 「俺のこと嫌いだって良いんだ。こうして話してくれるだけで嬉しいよ」 「っな、」
また、いつもの笑顔。さも当然のことである様な躊躇いの無い言葉。僕の大嫌いな、彼を形作るもの。なのに、…大嫌いな筈なのに、なんで──目が離せなくなるんだ。こんなのおかしいだろ。頬が熱くて、脈が早い。思い切り殴られたみたいにクラクラする。おかしい、おかしいぞ。これじゃあまるで、嬉しいと思ってるみたいだ。いやまさか、そんな。嬉しくなんか。風丸先輩を連れていってしまったこの人に、好意なんて抱ける訳ないんだから。
「…悲しいとか、思わないんですね」 「ん…悲しいよりは寂しい、かな」 「僕は、そんなに、」
何を言おうとしてるんだ。止まれ、今すぐ止まるんだ僕の口。敢えて考えない様にしていたことを口走るんじゃない!僕はこの人が嫌い、円堂さんが嫌い、嫌い、嫌い、!
「俺、宮坂に嫌な思いさせたくないし」 「……」 「俺を見ていっつも辛そうにしてる宮坂を見てると、悲しいより…寂しくなる」 「………ば、」
ばかですか。なんで、自分より僕のことなんか心配するんだ。言いかけた言葉は飲み込んだ。今口を開いたら、何か余計なことまで言ってしまう気がしたから。…やっぱりこの人が嫌いだ。でも、少しだけ認めても良いことがある。──この人の声が僕の名前を呼ぶのは、そんなに嫌じゃない。
背中合わせの恋心 ("嫌い"の分だけの想い)
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