※風丸さんがぶっ飛んでる





「あの…ごめんね、突然呼び出して」
「いや、大丈夫だ」

私の目の前には風丸くんがいる。自分で呼び出したんだから当然だけれど、今までになく近い距離に緊張で声が震えた。真っ直ぐ見ることすら叶わない。今まで遠くからしか見たことがなかったから。それでも、一年生の頃からずっと彼を見つめ続けていた。その人が、私の言葉に応えてくれているだけで嬉しい。…とは言え、そんな喜びに浸るために呼び出したんじゃない。なけなしの勇気を振り絞り視線を上げた。そのまま口を開きかけて、──躊躇する。風丸くんの瞳は私を見ていない。その先を辿ってすぐに納得した。彼が気にしていたのは、円堂くん。ずっと見ていたから知っている。円堂くんは風丸くんの幼馴染みの男の子で、少し前までは存在も朧気だったサッカー部のキャプテン。話したことはないけれど、人一倍熱血で頑張り屋さんなんだってことくらいは解る。でも無茶をしがちなタイプみたいだから、風丸くんも目が離せないんだろう。今も、風丸くんの視線の先の円堂くんは、サッカー部の友達とじゃれて転びそうになっている。その明るい笑顔につられ思わず頬が緩んだ。なんとなく、勇気を貰えた気がする。気付けば口を開いていた。

「円堂くんって不思議な人だね」
「…え、」
「話したこともないけど…なんだか、あの元気な声とか、笑顔とか、見てて凄く安心できるっていうか…」

だから、円堂くんの周りには人が集まるんだろう。誰に対しても隔てのない空気と、誰に対しても向けられる笑顔に、きっとみんな惹かれる。緊張が解れて思ったことを自然と口に出した瞬間、不意に背筋が粟立った。ざわりと揺らいで冷えた空気に、思わずたじろぐ。強烈な違和感を肌で感じた。その出所はつまり、私の目の前にいる彼しかいない。風丸くんはいつの間にか円堂くんから視線を外していて、けれども俯いているせいでその表情は伺えない。だからだろうか。──怖い。そう、思ってしまった。

「…わかった、」
「か…風丸、くん?」
「お前、円堂が好きなんだろう」

違う。その言葉は、声にならないまま飲み込むしかなかった。風丸くんの瞳が、私の一切の行動を許さない。ざり、と彼が足を踏み出す空気を感じて、後退ってしまったのは本能だろうか。けれど私の後ろには校舎の壁しかない。行き場のない私に構うことなく彼との距離は縮まって、気付けば目と鼻の先の距離に彼の秀麗な顔があった。煩い心臓は、つい数分前までとは全く違う理由で早鐘を打っている。私を見据える冷たい眼差し。この人は、本当に、あの穏やかな風丸くんなのだろうか。

「円堂が好きだからこんなことするんだな。わざわざ面と向かって。円堂のこと理解したフリして。俺が円堂の傍にいるのが気に食わないんだろう?俺はお前が気に食わないよ。女だからって平気な顔して円堂に近付きやがって。殺してやりたいくらいだ。女ってだけで好きになっても告白してもセックスしても許される。周りからも円堂からも異常だなんて思われない。そんなの間違ってる。たった一つの染色体が違う、それだけのことで異常か正常か判断するなんてそれこそ異常だ。だってそうじゃないか。俺はお前なんかより円堂が好きなのに。ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、好きなのに、なぁ」

言葉が出ない。でも彼も返事を求めてはいなかった。絶えず紡がれる言葉は、私じゃなくて、彼と円堂くん以外の全てに吐き捨てられている。彼は、自分と円堂くん以外の全ての存在を憎んでいるらしい。錯覚でなく、素直に怖いと思った。けれど、逆に冷静になっている脳内が囁く。可哀想だ。円堂くんが好きなあまりに、自分のことも、円堂くんのことも、見失っている。円堂くんなら、想いを伝えても真摯に答えてくれるだろうに。そんな円堂くんだから好きになったんだろうに。可哀想だ。彼も。円堂くんも。湧き上がる感情は同情にも哀れみにも似ていて、けれど多分、嘲りに一番近い。吐き出される言葉を聞き続けながら、私は恋の終わりを知った。



最も悲惨なかたちで訪れた終焉
















友人からのリクエストで書いた代物でした。後半が力尽きてる感満載で申し訳ない…。あとモブ女子さんにも謝りたい。でも書いてて物凄く楽しかったです。

title by 亡霊



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