※初期雷門3人しか出ない ※カプ要素もあんまりない
「やば、ここ麦チョコ超安い」 「まじで!あー、でもこっちのガム買ってこ。前から食いたかったんだ」 「オイお前ら早く決めろって」
知らない店に知らない道。を、見知った3人で歩く。不安は無かった。半田と染岡がいれば何も怖くないと本気で思えたから。馬鹿みたいな話をして、馬鹿みたいに笑って、目的もなくただ歩く。足が痛くなっても。帰り道が解らなくなっても。この3人でどこまでも歩きたい気分だった。
「なんか、この雰囲気懐かしいよな」 「染岡、その言い方親父くさいぞ」 「ははっ!まあ、FFIの後からは部員もぐっと増えて下の面倒見るのに忙しかったからなあ」
こうして3人だけで話すのなんか、多分1年生の頃以来だ。あれからあっと言う間だった気もするし、長い長い時間をかけてここまで来た気もする。サッカー部としてはあの頃よりずっと充実しているけれど、久し振りのこの空気が懐かしくて愛おしい。二人もそう思ってくれてるかなあ。
「二人が来てくれて、やっとサッカーらしくなれたんだよな」 「…グラウンドも使えなかったのに?」 「ああ!だって、一人じゃボールを受けることも出来ないだろ。二人が蹴って俺が止める!それさえ出来ればサッカーなんだ!」 「ま、部活らしくは無かったけどな」 「そりゃそうだけどさ。…でも、俺は3人だけでも楽しかったよ」
毎日部室で顔を突き合わせて、どうしたら部員が集まるか考えたり。限られた空間でお互いにボールを蹴りあって、他の部活に怒られたり。それも出来ない時は3人でがむしゃらに走り込んだり。部活動らしくはなかったけど、俺は確かにそんな毎日が大好きだったんだ。
「…まあ」 「悪くはなかった、な」 「だろ?」
少し照れ臭そうな二人に、顔が綻ぶ。やっぱり、二人とも大好きだ。二人とやるサッカーは、二人と過ごす時間は、俺にとって特別。二人がいてくれたから、俺は今こんなにも満たされている。夕日に目を細めた半田が小さく呟いた。
「帰りたくねぇなあ…」 「…」
言葉が出なかった。俺も、多分染岡も、同じ気持ちだったから。帰りたくない。この時間を終わらせたくない。だけど俺たちは、そうする術すら知らない、子供だった。
「…染岡は、隣町からサッカー推薦来てたんだっけ。行くのか?」 「おう、…半田は駅二つ挟んだとこの私立だったか」 「ん…まあ。……円堂は」 「俺は…雷門高校だよ」
さっきまで笑ってたのが嘘みたいに、俺たちは俯く。足も止まっていた。大した距離じゃない、…なんて、言えない。だって俺たちは、自分の住む町のことすらろくに知らないんだから。
「…バス。俺んちの傍に停まるじゃん」 「稲妻町は出たと思ってたんだけどな」 「こんなとこ稲妻町にあったんだ」
目の前のバス停には紛れもなく稲妻町の文字が印字されている。ほら。俺たちはやっぱり子供なんだ。どんなに必死に歩いたって、町ひとつ越えられない。それを息苦しく思いながら、同時に安堵してもいる。何だか急に、自分がどれだけちっぽけな存在なのか思い知らされて、視界がぼやけた。無遠慮に頭を掻き回す染岡の手も、背中を軽く叩く半田の手も、小さく震えている。ずっと一緒にいる内に、泣き出すタイミングまで似てきたらしい。…あーあ、時間が止まれば良いのになあ。
明日の卒業式なんて、無くなっちまえ。
巻き戻せない刹那 (下らない感傷だと笑えばいい)
卒業式直前でちょっとセンチメンタルになってる初期雷門の話でした。この3人はブレイクとはまた違う絆があって大好きです。
title by 亡霊
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