※ミス→円←バダ





「バダップ、俺良いこと考えた」

真顔で言い出したミストレに、バダップは眉を寄せた。ミストレが真面目くさった顔付きで言い出すことは、大概良いことではないと決まっている。しかし此処で無視をすればミストレの機嫌を損ね、後々面倒になるのは明白だった。一度大きく溜息を吐き出したバダップが何だ、と問い掛ける。

「随分嫌そうだね。でも今回はきっと俺に同意せざるをえないよ」
「だから…何だと聞いている」
「80年前の円堂守をさぁ、クライオニクスにかけちゃえば良いんだよ」

クライオニクス。所謂コールドスリープという奴だ。だがそれは、当時の医学では治らない病を抱えた人間が未来で蘇生できることに希望を託し死んだ肉体を冷凍保存するという技術である。つまり、ミストレの提案は、暗に円堂守を殺すと言っていた。

「80年前で円堂守をクライオニクスにかけて、こっちに戻ったら生き返らせれば良い」

そうしたら俺たちと生きてくれる。言ったミストレに笑顔はない。バダップも、ミストレも、解っていた。無理があることなど。そんなことをすれば未来は変わる。円堂守が影響しなかった未来に。そして、恐らくバダップたちは円堂守に関わらない未来を生きることになる。コールドスリープから円堂守を目覚めさせることも無いだろう。否、そもそも、クライオニクスという技術自体が発展していない。死体の状態を保つのが困難なのだ。そんな不完全な技術に頼ることなど出来る筈もない。無意味だった。それでも、バダップもミストレも、それを口にはしなかった。

「円堂守がいたらきっと楽しい。毎日飽きないだろうね。口を開けばサッカーのことばっかで、でも俺は優しいから付き合ってやるんだ」
「俺も付き合おう」
「…バダップ、丸くなったな。でも円堂守とサッカーするのは俺だから」

無意味を嫌うミストレが口にするほど、無表情を貫くバダップが頬を緩めるほど、円堂守は大きな存在だった。有りもしない夢物語で心を慰めるほど、二人にはその存在が焼き付いていた。想うほど、焦がれるだけだと理解していても。

『サッカーやろうぜ!』

もう二度とその笑顔を見ることは叶わないと解っているから、こそ。



クライオニクスは
笑わない

(瞬間が凍ればいい)






三人称で書くと途端にやっつけ臭さが漂う…!気合いいれた、つもり、なのですが。三人称苦手です物凄く。
2011/03/12 23:42




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