※吹→円←冬





「吹雪さんって本当に邪魔なひと」

この際ですからはっきり言いますね。そんな前置きをしてから、小さく愛らしい唇から零れた音。人形の様に整った顔には穏やかな微笑みが湛えられている。自分の頬が自然と緩むのを自覚しつつ、踏み出そうとした足を方向転換して彼女に向き直った。

「邪魔なのは君の方だよ?」

挨拶の様に軽く言ってみれば楽しそうな笑い声と共に微かな花の香りが届いて、胸の奥底にどろどろしたものが沈殿していく気がした。目の前の女は吹雪さんたら、と愉快そうに言ってから一歩僕に近付く。僕の顔を覗き込んだ拍子に淡い菫色の髪が一房肩から滑り落ちて、先程までよりも強い香りが鼻腔を掠めた。

「怪我なんか治さないまま、戻ってこなければ良かったんですよ」

零れた髪を耳にかけ直してやると、柔らかく綻ぶ顔。微笑み返す。その頭をひっ掴んで、吐息の触れる位置まで引き寄せた。どこまでも変わらない表情は本当に人形染みている。内緒話をする様にその耳元に唇を寄せて、囁いた。

「そんなにピッチで一緒に戦えないのが悔しいんだ。可哀想だね」

間近で見詰めた瞳は底の知れない、ほの暗い色をしている。ほぼ無いに等しい距離の中で交わしたのは、口付けでも睦言でもなく、ただただ純粋な殺意だった。



睫毛が重なる
距離にて






端から見たら恋人同士のじゃれあいだけど会話は天敵同士な吹雪とフユッペ。冬サンドはやっぱり冷戦になりました。
2011/03/08 23:42




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