※一之瀬が病んでる 手術は失敗だった。 「いち、のせ…っ!」 「円堂」 病室に駆け込んできた円堂に微笑むと、円堂は酷い顔をして俺を凝視した。結果を知っているみたいだ。きっと俺が絶望していると思っているんだろう。壊れてしまったと思っているのかもしれない。 「一之瀬…その、手術…」 「ああ、…失敗だった。リハビリすれば動く様にはなるけど…サッカーは出来ないって」 正確には失敗じゃない。リハビリすれば日常生活を問題なく送れるのだから。けれど、サッカーが出来ないのなら失敗も同然だ。俺の言葉に円堂が泣きそうに顔を歪める。相変わらず、優しい奴。でも泣かせたい訳じゃない。円堂には笑っていてほしい。俺の隣で。 「…辛いよ。苦しい。俺の夢はもう叶わないし…もう二度と円堂とサッカー出来ないんだ。正直、どうにかなりそうだよ」 「一之瀬…」 本当のことだ。嘘じゃない。辛いし苦しい。だけど、足を失った俺の目の前には欲しくて堪らなかったものがある。どんなに望んでも手に入る筈もなかった存在に、今、手が届く。 「こんな思いをするくらいなら、あの事故の日、あのまま」 「一之瀬!!」 「…円堂」 「駄目だよ、一之瀬、そんなの…それだけは絶対に駄目だ…っ」 円堂に頭を抱きすくめられて、堪えきれず唇が弧を描いた。上手く行き過ぎじゃないかと疑うほど、思った通りに事が進んでいる。円堂の背に手を回して抱き返した。なるべく弱々しく感じる様に気をつけて。縋りつく様な弱さで。さあ。俺の手の中に早く墜ちておいで。 「──じゃあ」 「…?」 「円堂が俺の傍にいてくれないか」 「…え…それ、」 「ずっと円堂が好きだった。円堂が傍にいてくれるなら、俺はどんなに絶望したってまた立ち上がれる」 待っていたんだ、ずっと。円堂の隣を俺だけのものにできる瞬間を。サッカーを失っても、円堂がそれを埋めてくれる。だから足はいらない。答えはもう解ってるんだ。円堂はこんな俺を見捨てない。弱って、放っておいたら死んでしまいそうな俺を捨てるなんて、優しい優しい円堂に出来る筈がない。だから、はやく。 「円堂、好きだよ」 「…うん。俺も、一之瀬が好きだ。ずっと、…一之瀬の、傍にいる」 ああ、やっと捕まえた。 過不足のない世界 (得たものと失ったもの) ごめんよ一之瀬…。病んでる一円が書きたかったんだ…。ヤンデレ好きでごめんなさい。 2011/02/25 23:27 |